日刊スポーツ「フラッシュアップ」大谷昭宏
平和は「沖縄基地お守り」の御利益なのか
‐戦争のない時代 平成‐
平成の元号のもとで書く最後のコラムである。きょう退位される天皇陛下。直近で深く心に残ったことといえば、やはり昨年85歳のお誕生日を前に、天皇として最後となる記者会見で語られたお言葉だった。
あらためて記事を読み返してみると、陛下は何度か声を詰まらせ、涙声に聞こえることもあったとある。
ひとつは戦争と戦後の日本にふれながら、「平成が戦争のない時代として終わろうとしていることに、心から安堵(あんど)しています」と、ご自身の平和を希求するお気持ちを率直に述べられたときだった。
さらに陛下は皇太子時代を含め、皇后とともに11回も訪問された沖縄にふれ、「沖縄の人々が耐え続けた犠牲に心を寄せていくとの私どもの思いは、これからも変わることはありません」と、何度か声を詰まらせた。
その沖縄、私事になるが、4月中旬、数十回目となる取材で、このたびは地元の沖縄タイムス、琉球新報2紙の記者を訪ねた。肌で感じたことは、国際通りのみやげ物店に早々と「令和」のTシャツが並んだ以外、平成から令和へ、本土の、どこか浮足立ったにぎやかさはメディアを含めて沖縄にはないように見えた。
インタビューさせてもらったのは、沖縄2紙のデスククラスの中堅記者と入社3年目の若手。陛下が沖縄に何度も足を運んでくださったことに心底感謝しつつ、ともに口にしたのは、沖縄の思いに耳を傾けようとしない本土へのもどかしさだ。
辺野古新基地反対の衆院補選候補が当選する前だったが、県民投票で圧倒的多数でノーの結論が出たのに、直後から急ピッチで進むサンゴ礁の海の埋め立て。沖縄の「平和」と「犠牲」。中堅、若手の記者からともに口を突いて出たのはくしくも「基地お守り論」だった。
北朝鮮の核ミサイル、中国の海洋進出。沖縄の米軍が、そして基地が、抑止になっている、それがあるからこそ、平和が維持されている─。だけどそれは本当に、このお守りの御利益なのか。後生大事にしているお守りの中身を、だれか1人でも見たことがあるのか。
陛下が安堵された戦争がなかった平成の時代と、沖縄の人々が耐え続けた犠牲。大事にすること、向き合わなければならないこと、重い命題を胸に、あと数時間で令和の時代がやってくる。
(2019年4月30日掲載)
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