日刊スポーツ「フラッシュアップ」大谷昭宏
平成の黒い疑惑 幕引きさせてなるものか
-広島中央署の8572万円盗難事件-
県警VS.記者
きょう5月14日は昨年、新潟市西区で小学2年の女児が殺害されたうえ、線路に遺体を遺棄された事件で、犯人の男(24)が逮捕されて1年になる。世間を震え上がらせ、私たちも連日、報道したが、1年たって初公判さえ開かれていないことを知っている人は少ないのではないか。同時に、ニュースを送る側の関心の移ろいの速さにも驚かされる。
そんななか事件発生からまる2年の、この5月はさすがにないと思っていたら、「やっぱり県警の対応についてコメントを」と言ってきた局がある。日本テレビ系列の広島テレビが、それ。
2017年(平29)大型連休明けの5月8日、広島中央署会計課の金庫から現金8572万円が盗まれていることに課員が気づいた。大金が警察署から盗み出され、しかも身内の犯行とみて間違いない、日本の警察史上に残る大汚点。
この事態に署や県警の幹部がうろたえるのは、わからなくはない。だが県警は事件についての広報や県民への説明、謝罪は一切なし。翌年、本部長が転任するあいさつの一部で事件にふれただけだった。
この対応が広島テレビの事件記者に火をつけた。電話取材だけではあきたらないと、ときには記者が新幹線で大阪の私の事務所までやってきた。
だけどこうした報道も県警にとってはカエルの面になんとか。事件後に着任した本部長の下、幕引きに向けて次々と手を打ってくる。まず今年2月、県民に迷惑はかけないとして被害金は県警幹部とOBで全額弁済すると公表。そのうえで4月、元県警警部補が犯人とした一部報道を「関知しない」としたまま、中央署長ら7人の処分を発表した。
そもそも事件が解決していないのに、どうやって関係者を特定して処分できるのか。このときも広島テレビで怒りに燃えるコメントをさせてもらった。一刻も早くみっともない事件を忘れさせようと幕引きを図る県警側と、そうはさせじと幕にしがみつくテレビ記者。
だけど広島だけではない。国に目を移してみれば、森友・加計問題に、あちこちで噴出した統計不正。令和の新時代に押し寄せたお祝いの波も、いま静かに引きつつある。そこに再び、くっきりと姿を見せた平成の黒い疑惑。慶事に紛れて幕引きさせてなるものか。メディアの真価が問われている。
(2019年5月14日掲載)
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