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2019年4月 4日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」大谷昭宏

跡取りいない漁業…被災地は課題抱え新時代へ
‐「スーパーJ」卒業作品に訪ねた‐

  新しい元号は、きのう「令和」と発表された。いよいよ来月1日には、新天皇のご即位。御代替わりである。

  私事になるが、そんな節目のとき、私も18年にわたってコメンテーターをつとめてきたテレビ朝日の夕方ニュース、「スーパーJチャンネル」を3月末で降板させていただいた。

  さて、最後の出演となった先週水曜日の特集は、いわば私の卒業作品。迷うことなく、宮城県南三陸町の千葉正海さん(63)を訪ねた。千葉さんは東日本大震災で被災。カキ、ワカメの養殖場や新築したばかりの自宅、何もかも津波で流された。だけど長男の拓さんや当時5カ月だった初孫の彩音ちゃん、家族はみんな無事だった。

  震災直後、避難所の千葉さんと中継でつないだのがご縁で、荒涼とした浜が広がる震災1年目、初夏を告げるシロウオが帰ってきた3年目。これまで10回近く千葉さんをお訪ねした。
 
  拓さんの船、「拓洋丸」で突き進んだ、春まだ浅き志津川湾。クレーンで揚げたカキ殻にはプリンプリンのカキが詰まっている。肉厚のワカメも、いまが旬。あれから8年。海の恵みは震災前をしのぐところにまで回復しているという。

  「おっ、とんでもなく運さよがったぞ」。千葉さんが指さした先。養殖イカダの上に、漆黒の羽、首に白のリング模様。絶滅危惧種で天然記念物のクロガンが3羽、4羽。津波が海底の砂まで持っていった湾は昨年10月、水鳥など湿地や浜辺の水生生物の保護を目的としたラムサール条約の指定地になったという。

  「あれほどの命を奪ってしまった海だけんど、いままた命さ運んできてくれるんだぁ」。その海に生きる千葉さんは8年の間に孫も3人に増えた。そんな千葉さんが一瞬、顔を曇らせる。

  いま千葉さん親子がグループを組んでいる2人の漁師は70代。ともに跡取りがいないので、遠くない将来、廃業するという。そうなると漁場や港の管理、漁協の役員、どれも拓さん1人の上にのしかかる。だが、この問題は、個人の力ではどうすることもできない。加えて、それは被災地のどの町も村も同じ状況だという。

  自然は再び恵みを運んできてくれても、今度はそれを受け止め、応えていく人がいない─。被災地は重いい課題を抱えながら、令和の時代へと進んでいく。

(2019年4月2日掲載)

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