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2019年3月 9日 (土)

Webコラム 吉富有治

問われるのは有権者の良識ある市民目線
 ~クロス選挙は脱法行為の疑いも~

  松井一郎大阪府知事(大阪維新の会代表)と吉村洋文大阪市長が一か八かの奇策に出た。それぞれ任期を半年以上も残して知事と市長を辞職し、4月の統一地方選にあわせて知事と市長を入れ替えるクロス選挙に打って出る。両氏は8日夕、記者会見してそれぞれの辞任を正式に表明した。 

 今回のクロス選挙の背景にあるのは大阪維新の会と公明党との対立だ。つかず離れずの関係だった両党が、ここに来て戦闘状態に入ってしまったからだ。

  大阪市を廃止して特別区を設置する、いわゆる大阪都構想をめぐって維新と公明党は当初、密約を結ぶような仲だった。その密約の中身とは、都構想の制度設計を議論する法定協議会の設置と住民投票を実施する、この2点。2015年5月17日の住民投票では反対票が賛成票を上回ったものの、同年11月の知事選、市長選のダブル選挙で維新の会が圧勝。維新の勝利を受け、公明党も2017年4月17日に密約文書にサインし、法定協議会は2017年6月末に再スタート。このまま約束は実行されるかに思えた。
 
  ところが昨年末、4月の統一地方選に合わせて住民投票を実施したいと迫る松井知事に公明党が反発。統一地方選に住民投票をぶつけられると投票率が上がり、組織票頼みの公明党は苦戦すると考えたからである。

  この対立をきっかけに両者の関係は一気に冷めることになる。3月7日の法定協議会では両党の議員が激しく言い争い、決裂は決定的になった。法定協議会の終了後、松井知事と吉村市長は「だまされた」「死んでも死にきれない」などと公明党を激しく非難し、クロス選挙に出て同党を牽制する作戦に出たのだ。

  一方、このクロス選挙に疑問を投げかけたのが3月5日の毎日新聞社説だった。「大阪知事・市長の策略 地方自治への二重の背信」と題した社説は「公職選挙法の規定によると、松井、吉村両氏がそのまま出直し選挙で当選しても11月と12月までの任期は変わらない。自分の都合に合わせて新たな任期を防ぐのが法の趣旨だ」とし、「ポストを入れ替えて当選すれば両氏とも4年の任期を得る。一種の脱法行為ではないか」と一刀両断した。私も同意見である。

  まず、クロス選挙は「出直し選挙」ではない。出直し選挙とは一種の信任投票で、知事や市長が自ら掲げる政策の賛否について公職を賭して有権者に問うことである。そのため選挙で復職しても任期は辞める前と変わらない。半年残しての辞任なら、当選しても任期は4年ではなく半年である。これが公職選挙法第259条2項の規定である。

  そもそも同法259条2項の立法趣旨は、知事や市長が意図的に辞任し、いたずらに任期を伸ばす悪意のある政治利用を防ぐことを目的としている。実際、過去には知事や市長が敵陣営の擁立候補が決まらないうちに不意打ち的に辞職し、「首長選は現職が有利」のセオリーを利用して辞任、当選を繰り返しては任期を伸ばしていた事例が国内でもあったという。そのため首長選挙の悪用を防ぐために公職選挙法を改正した経緯がある。

  さすがに今回のクロス選挙は同法も想定しておらず、抜け穴とも言える。抜け穴だが、立法趣旨を逸脱しているのは間違いない。だから毎日新聞社説は「脱法行為だ」と断じたのだ。

  こうした芸当ができるのは知事と市長が共に同じ維新に所属する政治家だからで、片方が非維新の首長なら不可能だったはずだ。松井、吉村の両首長は「共に同じ方向を向いているから、知事と市長を入れ替えても変わらない」と言うが、別の見方をすれば脱法行為の温床が存在することでもあろう。同じ仲間の首長同士、悪知恵が働けば、その"効果"もダブルになるというわけである。このような問題を防ぐためにも、国会は急ぎ公職選挙法の一部改正に取り組んでもらいたい。
 
  それ以前に、クロス選挙をやって仮に"松井市長"と"吉村知事"が誕生したところで、法定協議会に対して何らかの処分や命令を出せるわけでもメンバーを入れ替えられるわけでもない。公明党が維新に頭を下げない限り以前と何も変わらないのだ。いったい何のために辞めるのか、誰が考えてもさっぱりわからない。

  辞める意味も大義もなければ、法の趣旨をねじ曲げる脱法行為の疑いさえある今回のクロス選挙。4月の統一地方選と知事選、市長選で問われるのは都構想の是非ではない。有権者の常識と良識ある市民目線である。

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