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2019年3月 7日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

悩んだら なぜその職業を選んだのかを考えろ
‐企業説明の解禁、就活の開始‐

  春3月、やわらかな日差しがそそいだ1日、いつもの東海テレビ(名古屋)の「ニュース0ne」は来春卒業予定の大学生などに向けた企業説明の解禁、就活の開始を伝えていた。面接や内定の解禁日も定めた、いわゆる経団連ルールは今年が最後だという。

  とは言っても少子化の中、大変な若者不足で、実際は今年もなし崩し。きょうからしっかり企業を回ります、と硬い表情の学生がいる一方で、ニュースはチアリーダーが飛び跳ねる専門学校の出陣式。「4月中に内定をもらって5月の連休は海外で~す」という笑顔の女子グループも伝えていた。

  「まったくの売手市場ですね」というキャスターの問いかけに、こちらも笑顔を返しながら、ついついこんな言葉が口を突いて出る。

  最後はなんとか希望がかなったとはいえ、マスコミ一本に絞って不安のまっただ中にいたわが就職活動。この日解禁になった学生に「そんなときだからこそ」と、コメントをした。

  バブルがはじけて失われた十数年、就職氷河期といわれた時代は、心ならずもその職に就かざるを得なかった人が大勢いた。進路を選べるいまだからこそ、心底、自分がどんな職業につきたいのか、問いかけてほしい。

  華やいだ雰囲気のなかで、どうしてもこんなことを言っておきたかったのは、たまたまこの日の朝、書店で1冊の文庫本を手にしたからかもしれない。

  朝日新聞三浦英之記者の「南三陸日記」。東日本大震災の年の6月から9カ月、三浦さんは津波で甚大な被害が出た南三陸に身を置いて日記をtづづった。その記事に私も何度、涙をぬぐったことか。それが集英社から文庫本になったのだ。

  忘れられない一文がある。

  三浦さんが駆け出し記者時代、「職業は違うが、目標は一緒だ」と何度も肩を叩いてくれた、その警察官は幹部になっていたが、あの震災で命を落とされた。県警の公葬が終わるのを待って主なき自宅を訪ねた。

  〈最期は女性を助けようと濁流にのまれた、と聞いた。「どうして…」と仏前で言いかけて、彼の口癖を思い出した。

  「悩んだら、なぜその職業を選んだのかを考えろ」

  帰りの車の中で、私は大声をあげて泣いた─〉

  春は、やはり出会いと別れの季節なのかもしれない。

(2019年3月5日掲載)

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