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2019年2月

2019年2月28日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

発表も謝罪もなし 被害金は補填…では済まない
‐広島県警・死亡警部補の犯行‐

  「広島中央署の8500万円盗難事件の犯人が書類送検されるようです。あの警察官だと大谷さんに伝えていただけたら、わかるはずです」。これまで何度も取材に応じてきた広島テレビの記者から、あわてた様子で事務所に電話インタビューの依頼があった。

   「ええっ? やっぱり事件後亡くなった、あの警官だったのか」

  2017年5月、広島中央署1階会計課の大型金庫に詐欺事件の証拠品として保管中だった現金8500万円余りが盗まれた。警察署内で起きた前代未聞の多額盗難事件に県警は青くなり、市民はあきれ返った。

  だが内部犯行といわれながら捜査は難航。そんな中、詐欺事件の捜査に関わり、事件後借金を返済していた30代の警部補が浮上。しかし頑強に否認したまま、警部補はこの年の9月、自宅で死亡していた。県警はメディアの追及に警部補の関与を強く否定していたが、現金は見つからないまま、近くこの警部補を被疑者死亡で書類送検するという。なんのことはない、1年半も回り道をしていたのだ。

  それにしても警察署内で大金の盗難。結果、内部の警官の犯行。だけどその警官は 死亡していた─。またまたあきれ返る最悪の結末。だけど私は、広島県警が猛省すべきは捜査だけではないと感じている。

  事件から1年10カ月。県警は公には事件の内容を一切、発表していない。それに、ただの1度も県民に謝罪していないのだ。県議会での質問に答えたのと、昨年1月、本部長が転勤する際、記者クラブの強い要請で離任あいさつのついでに事件にふれ、「このような形で離任することを心苦しく思う」と述べただけなのだ。

  加えて「警察官を被疑者死亡で書類送検」の報道が出る直前、県警は被害金について、現職幹部とOBで補填すると発表した。身内の犯行とわかったので、身内で金を出す。県民には迷惑をかけないということだろうが、それですむという問題ではないだろう。

  まず、なぜこの警部補と断定したのか。これほどの大金をいつ、どうやって警察署外に持ち出したと考えられるのか。こと細かく公表したうえで、幹部が打ちそろって心から謝罪する。それなくして、いくら再発防止を唱えようと、空念仏としか聞こえてこないのだ。

(2019年2月26日掲載)

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2019年2月21日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

池江さん 待っているからね
‐励まされた言葉‐

  池江璃花子選手の白血病公表で思わぬ波紋が広がっている。桜田義孝五輪相の「がっかり」発言では、この日刊スポーツからもコメントを求められた。私自身、がん手術を経験していることから、池江さんの件ではテレビなどで思いを聞かれることも多い。

  桜田大臣の言葉は、4分余りの全体を聞くと、激しく人を傷つけていると思えない。だけど、たびたびの不規則発言、それに五輪憲章も読んでいない担当大臣を政権は意固地になって更迭もしない。それがこんな騒動を引き起こしているのだ。これから病と闘う池江さんに、そんな姿を見せてどうするんだ。

  じつはこうした流れは、がんと闘う人と、まわりとの間にぎこちない影を落としているように思えてならないのだ。私自身が気にしていないのに、がんのことを口にして急いでとり繕う人。傷つけまいと、がんの話題を避けようとする人。かえって気まずくなったことも多い。

  池江さんの件では先週、朝日新聞が2面トップで「がんとの闘い どう接すれば」の記事を掲載。「応援が励みに」という闘病経験のある選手の言葉を載せる一方、「応援は患者の思いを聞いて」という専門家の声も紹介している。

  なんだかなあ。国民の2人にひとりが、がん患者といわれる時代に、もっと肩の力を抜くことはできないものか。

  ひるがえって私も、かなり難しいがんと宣告されたとき、まわりの方々がさまざまな声を寄せてくださった。もちろん傷つくことを言われた覚えはないが、「がんばって」「負けないで」「いまは医学が日進月歩だから」…。そのとき一番心に強く残った言葉は、いま思い起こしてみると単純に「待っているからね」だった気がする。

  「早く良くなって。待っているからね」「あせらずに。待っているからね」「気長にのんびり。待っているからね」。変幻自在、いかようにもとれるこの温かい言葉に、どれほど励まされたことか。

  池江さんは、「今の率直な気持ち」と題して、たくさんの励ましのメッセージに感謝を込めて更新したツイッターの最後をこう締めくくっている。

  「必ず戻ってきます。池江璃花子」
 
  ─そう、待っているからね。


(2019年2月19日掲載)

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2019年2月14日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

弱者へ決して口にしてはいけないこと
‐麻生大臣、明石市長の発言に思う‐

  大阪から東京に向かう飛行機の中で、いま統計不正問題で政権追及の急先鋒に立つ旧知の野党女性議員と言葉を交わした。賃金、保険、まさに国民生活の根幹にかかわる統計の不正。

  「根本が腐っているなんて言っている場合じゃないよ。最低でも厚労大臣は辞職に追い込まないと」という私に、議員は「わかっているけど結局、麻生さんが壁なの」と力なく笑う。

  あの森友・加計問題の財務省文書改ざん事件。それに女性や高齢者、病気や障害のある人たちへ度重なる心ない発言。「どれも少し前だったら即刻辞任となるはずなのに、のうのうと生き延びているでしょ。だからどの大臣も、この程度で辞めるもんかとなっているの」。

  ところが偶然とはいえ、なんとその数時間後、当の麻生さんは福岡で開かれた講演会で、またしてもこんな持論を展開していたのだ。「高齢者が悪いみたいに言う人がいっぱいいるが、子どもを産まないのが問題なんだからね…」。

  そして2日後には「不快と思われる方には、おわび申し上げる」という毎度おなじみのふてくされ謝罪。

  ここに書き出すだけでも業腹な話だが、「セクハラ罪という罪はないんだよ」。終末医療のお年寄りには「さっさと死ねるようにしてもらうとか考えないと」。医療費の負担には「たらふく飲んで食べて、なにもしない人の(医療費を)なんで私が払うんだ」。

  こんな人物が財務相、副総理の座を追われることもなく、戦後の蔵相、財務相の在籍最長になったという。

  折しも道路買収交渉が進んでいないことに腹を立てて、市役所幹部に「楽な商売じゃ、お前ら」「いまから行って建物燃やしてこい。捕まってこい」と、パワハラ発言していたことが発覚、辞任した泉房穂明石市長。ここにきて「私だったら、(地権者に)土下座してお願いする」とした市長の音声データが出て、にわかに擁護論が浮上。次期市長選への出馬は様子見だという。

  だけど麻生さんも泉市長も本当にこれでいいのだろうか。自分の部下や、社会のなかで苦しい立場、弱い立場にある人に決して口にしてはならないことがある、と私は思う。

  「たるんじゃったな…みんな…」。昨年亡くなられた毎日新聞の岸井成格さんが最期に親しい人に漏らした言葉が浮かんで、消える。

(2019年2月12日掲載)

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2019年2月 7日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

アベノミクス忖度ではないところに問題の根深さが…
‐厚労省 統計不正問題‐

  朝日、毎日、それに日経新聞も「統計不正問題」。だけど読売は一貫して「不適切調査問題」。産経はその両方を使い分け。さて、どの表現が「適切」かはともかく、私は、この問題の追及の仕方は当初から間違えていると思えてならない。

  厚生労働省が実施している「毎月勤労統計」に続いて「賃金構造基本統計」も長年、定められた方法ではない形の調査が行われていたことが発覚。働く人の実質賃金も国の公表値は誤りとなった。当然、野党はアベノミクス成功の根拠となった賃金上昇は「大うそ、ごまかしだった」と厳しく追及する。なるほど、ここでもまた役人の忖度か、という気がしてくるのだ。

  だけどこの問題、まずなすべきことは、いつ、どこで、だれが、こんなことをしたのか。その目的はなんなのかを明らかにすることではないのか。その結果、「不正、不適切なことはしたけど、それがアベノミクスにどう影響するかなんて眼中になかった」となったら、野党もメディアも、まさに空を切って刀をふりまわしていることになる。

  こう書くのには、じつは根拠がある。問題発覚後、中央省庁の元キャリアと話す機会があったのだが、その元官僚は各省庁にある統計部局を伏魔殿としたうえで、「トップクラスのキャリアを除いて人事異動はほとんどない日の当たらない専門部局。省庁の中枢になることのない彼らに時の政権への思惑などあるはずがない」と言い切るのだった。

  その言葉を裏付けるように毎日新聞は今回、問題が発覚した厚労省の雇用・賃金福祉統計室は3万人の職員のうち、わずか17人。調査にあたった特別監察委は「安易な前例踏襲主義で長年、漫然と業務を続けてきた」と断じていると伝えている。また産経新聞も、この問題の震源地は統計部局としたうえで、「政策部門と切り離された閉ざされた組織」としている。

  ならばそんな人たちが、それでもアベノミクスに忖度したというのか。そうではないところにこの問題の根深さがある。こんな日の当たらない組織が漫然と出してきた数字をもとに、長年あらゆる施策が決められてきたのだ。まずはこの組織の実態を白日のもとにさらし、そのうえで統計をうのみにした政権が責任を取る。それが物事の順番というものではないのか。

(2019年2月5日掲載)
   

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