Webコラム 吉富有治
見えてきた都構想の終わり
荒れた法定協議会で維新と公明党との対立は決定的
「会長、動議! 動議!」
大阪市議会で昨日23日午前に開かれた「大都市制度(特別区設置)協議会」、いわゆる法定協議会で、今井豊会長(維新幹事長)が開会を宣言した直後、委員である公明党の八重樫善幸府議が冒頭のように動議を求める発言を繰り返した。これが波乱の幕開けだった。なお法定協議会とは、いわゆる大阪都構想の制度設計をおこなうことを目的に、大阪府の松井一郎知事と大阪市の吉村洋文市長、また府議会と市議会から各党の代表議員の計20名が参加して議論を進める場のことである。
さて、動議を提案した八重樫府議は用意していたメモを読み上げ、今年1月11日の第18回法定協議会は今井会長の一方的な通告で開催されるような異常事態であり、次回は改めるよう忠告したにもかかわらず、本日の法定協議会も強引な手法で開催されたと批判。断固抗議するとともに直ちに散会するよう訴えた。
この動議を受けた今井会長は採択をおこなわず、「大事なことだから皆さんの意見を聞く」と受け流し、なぜか維新の委員ばかりを指名。そこに、この動議の採択を求める委員や維新の委員から「採択しろや」「やかましいー」「職務放棄だ」などと怒声が飛び交い、協議会は40分以上も紛糾。結局、1時間近くの休憩をはさんだ後、今井会長は散会を宣言し、この日の法定協議会は議論がおこなわれぬまま中止となった。
これまで維新と歩調を合わせてきた公明党が180度も態度を変えたのには理由があった。大阪府の松井一郎知事が昨年12月26日、大阪府庁で記者会見し、維新と公明党が水面下で交わした密約文書を暴露したからである。「合意書」と題されたA4サイズ1枚の紙には、法定協議会において「慎重かつ丁寧な議論を尽くすことを前提に、今任期中に住民投票を実施すること」と書かれ、2017年4月当時の公明党府本部幹事長と大阪維新の会幹事長が署名していた。ちなみに署名した維新側の人物が法定協議会の今井会長である。
松井知事は市内のホテルで昨年12月21日、公明党の幹部らと面談。この密約文書を盾に、「任期」とは府議と市議のそれだと主張。4月の統一地方選と住民投票の同日実施が無理なら7月の参院選での同日実施を提案したが、公明党は「『任期』は知事と市長の任期であり、住民投票をするにも丁寧な議論が必要だ」と譲らなかった。怒った松井知事は途中で席を立ち、文書の暴露に踏み切った。また松井知事は、吉村市長と共に途中で辞任し、4月の統一地方選で知事選、市長選のトリプル選挙に打って出ることも示唆し、公明党を揺さぶる作戦に出た。
しかし、公明党は折れるどころか、ますます反維新の態度を強めていく、業を煮やした維新側は、これまで慣例として各党の代表者が集って調整していた法定協議会の日程を会長権限で強引に決めてしまった。確かに日程は会長が決められると法定協議会の規約には書かれている。だが、これでは慣例破りとなり平穏な会議は望めない。当然、維新以外の各党が反発し、冒頭の動議騒動に発展したわけである。
松井知事らは終了後の記者会見で「公明党は選挙目当ての私利私欲。慎重で丁寧な議論どころか完全な職責放棄だ」と批判した。だが、公明党の八重府議が提案した動議は会議をつぶすことが目的ではなく、正常な会議に軌道修正してほしいというものである。
対立する意見を目の前にして慎重な議論を進めるためには、その会議の運営が公平・公正・中立であることが前提だろう。片方の主張、意見ばかりを聞き、反対する意見を顧みない会議の運営では、とても慎重な議論など望めない。こんな調子で時間を取って会議を進めても慎重で丁寧な議論などできるわけがない。そもそも密約文書に署名した人物が法定協議会の会長に収まっていること事態、協議会の公平な運営など期待できないし、ここにきて今井会長の議事進行にも強引さが目立つ。公明党は公平で公正な議論の場を求めたにすぎず、職責放棄でも何でもない。むしろ維新による法定協議会の八百長ぶりが目につく。
いずれにしても今後、法定協議会はまともに開かれないだろう。となれば、「住民投票の実施」を大義に掲げた松井知事と吉村市長が任期を待たずに辞任し、統一地方選とのトリプル選挙になる可能性が非常に高い。だが、仮に知事と市長の椅子を維新が取ったとしても、中選挙区制の大阪市議会で維新が単独過半数の議席を奪うのは、まず不可能。結局、公明党の協力がなければ都構想など絵に描いた餅でしかなく、その公明党は支持母体である創価学会の了承を得て、維新と徹底抗戦の構えでいる。
この日の荒れた法定協議会を維新の一部議員らは、自民、公明、共産を批判する材料として早くも宣伝材料に使いだした。しかし、あの法定協議会が都構想の終わりを伝えるものだと気づいた議員は何人いたのだろうか。4月の"最終決戦"まで、あと2ヶ月と少しである。
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