日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏
人間のなす業に手も足も出ぬ千年の古都
‐災害にも明るいご住職や宮司さんだが‐
今年初めてのコラム、本年もどうぞよろしく。さて、お正月はいつもどおり京都。ただ、天皇退位まで4カ月ということもあってか、天皇と京都がより色濃く感じられる初春だった。
ホテルからちょっと足を伸ばした紫式部源氏物語執筆地の盧山寺。寺史には「現在の本堂は光格天皇が仙洞御所を移築し」と、今上天皇からさかのぼること202年、生前退位された天皇のお名前が出てくる。拝観させてもらった寺社仏閣の沿革には勅命、ご下賜といった言葉が、さりげなくではあるけど何度も出てくる。
ただ、そんな京都が去年受けた打撃は、私たち旅の者の想像をはるかに超えていた。9月の台風21号。周山街道を上った京北は北山杉が幾重にも倒れている。植林したとしても銘木になるには、数十年かかると聞く。その前に立ち寄った白椿で名高い平岡八幡宮は社領地の裏山で樹齢100年を超える古木を含め250本が根こそぎ倒れたという。足を運んだ寺社の多くが「緊急のご寄進を」の立て看板を出していた。
6月に大阪北部を襲った地震。洛南のお寺では、鐘撞き堂の瓦がずれて除夜の鐘を見送ったという。
だけどこんな深刻な事態に、ご住職も宮司さんも意外と明るい。「京都は千年の古都どす。その間、何百年、いや何十年に1度は大変な自然災害におうとるんです。それを乗り越えていまがあるんやないですか」。 「それよりも」と、住職たちを悩ませているのは今年のエトのイノシシにシカ、それにサルだ。イノシシはミミズを狙って寺院のコケを片端から掘り起こし、名庭園を台無しにする。シカは境内を踏み荒らし、サルは山里のカキ、ミカンを抱えて走る。
もちろん数が増えすぎたこともあるのだが、イノシシやサルが食べる木の実をつける落葉樹のブナやナラを切ってスギ、ヒノキを植林。それがお金にならないとなると、そのまま放置林に。食べ物を奪われたイノシシやサルは人里を襲い、スギなどの若芽が大好きなシカは爆発的に増えた。
台風や地震、自然がもたらす災害はたくましく、しなやかに乗り越える古都も、数十年、いや数年先しか見えない人間のなす業には手も足も出ない。そんなことを教えられた、平成最後の古都の初春だった。
(2019年1月8日掲載)
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