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2019年1月

2019年1月31日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

現職警察官が昇任試験めぐり多額報酬
‐なぜか全国紙報じぬ大問題‐

  事件、事故、災害取材。新聞、テレビといったメディアがもっとも関わりの深い公的機関といったら、やはり警察だろう。ただ大きく違うのは、警察組織は昇任試験に支えられた徹底した階級社会。それこそ上官の命令は絶対。「悔しかったら、(階級章の)星の数を増やしてからものを言え」の世界なのだ。だが、いまその昇任試験をめぐって警察組織が大きく揺れている。

  東京の出版社の依頼で、現職の警察官が昇任試験の対策問題集や模範解答に長年、原稿を執筆、相当額の報酬を受け取っていたことが明るみに出た。ただし、この問題、年明け早々に九州の西日本新聞がスクープ。先日、私のところにも京都新聞からコメント依頼があったように一部のブロック紙や地方紙が連日、報道しているのに、なぜか全国紙の大半は、いまのところ報じる気配はない。

  だけど、西日本新聞などの報道によると、現職警察官が執筆していたのは警察庁はじめ、福岡、広島、京都、愛知、神奈川など17道府県に及ぶ。このうち京都府警の警視は偽名を使うなどして5年間で計795万円を受け取り、西日本新聞が取材に入った昨年末、退職している。さらに神奈川県警の元警視は在任中、1000万円近い報酬を受け取っていた。もちろん副業を禁じた職務規定に違反しているし、税務申告していなかったら所得税法違反だ。

  ただ、そういったこととは別に、大半の警察官が激務の合間に少しでも上の階級を目指して眠い目をこすって勉強している。私もかつてそんなデカさんたちを見てきた。なのにその上司の警部、警視が民間の出版社に問題例を流して多額のお金を手にしている。現場で働く警察官が聞いて心穏やかでいられるはずがない。

  一方で災害の多い県警。山岳事故、海難事故への対応が求められる県警。設問がそれぞれ違う昇任試験。効率的な参考書を求める声も根強い。ここはどうだろうか。各警察本部が警務課や教養課に匿名の考査委員を置き、その委員が出版社との契約で地域の特性を生かした問題と模範解答を執筆。報酬は委員の慰労と警察官の福利、厚生に充てる。

  もちろん警察組織への批判も大事だ。だが一方で古いおつき合いの間柄。メディアの側からそんな提案があってもいいと思うのだ。

(2019年1月29日掲載)

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2019年1月25日 (金)

Webコラム 吉富有治

見えてきた都構想の終わり
荒れた法定協議会で維新と公明党との対立は決定的

「会長、動議! 動議!」

  大阪市議会で昨日23日午前に開かれた「大都市制度(特別区設置)協議会」、いわゆる法定協議会で、今井豊会長(維新幹事長)が開会を宣言した直後、委員である公明党の八重樫善幸府議が冒頭のように動議を求める発言を繰り返した。これが波乱の幕開けだった。なお法定協議会とは、いわゆる大阪都構想の制度設計をおこなうことを目的に、大阪府の松井一郎知事と大阪市の吉村洋文市長、また府議会と市議会から各党の代表議員の計20名が参加して議論を進める場のことである。

  さて、動議を提案した八重樫府議は用意していたメモを読み上げ、今年1月11日の第18回法定協議会は今井会長の一方的な通告で開催されるような異常事態であり、次回は改めるよう忠告したにもかかわらず、本日の法定協議会も強引な手法で開催されたと批判。断固抗議するとともに直ちに散会するよう訴えた。

  この動議を受けた今井会長は採択をおこなわず、「大事なことだから皆さんの意見を聞く」と受け流し、なぜか維新の委員ばかりを指名。そこに、この動議の採択を求める委員や維新の委員から「採択しろや」「やかましいー」「職務放棄だ」などと怒声が飛び交い、協議会は40分以上も紛糾。結局、1時間近くの休憩をはさんだ後、今井会長は散会を宣言し、この日の法定協議会は議論がおこなわれぬまま中止となった。

  これまで維新と歩調を合わせてきた公明党が180度も態度を変えたのには理由があった。大阪府の松井一郎知事が昨年12月26日、大阪府庁で記者会見し、維新と公明党が水面下で交わした密約文書を暴露したからである。「合意書」と題されたA4サイズ1枚の紙には、法定協議会において「慎重かつ丁寧な議論を尽くすことを前提に、今任期中に住民投票を実施すること」と書かれ、2017年4月当時の公明党府本部幹事長と大阪維新の会幹事長が署名していた。ちなみに署名した維新側の人物が法定協議会の今井会長である。

  松井知事は市内のホテルで昨年12月21日、公明党の幹部らと面談。この密約文書を盾に、「任期」とは府議と市議のそれだと主張。4月の統一地方選と住民投票の同日実施が無理なら7月の参院選での同日実施を提案したが、公明党は「『任期』は知事と市長の任期であり、住民投票をするにも丁寧な議論が必要だ」と譲らなかった。怒った松井知事は途中で席を立ち、文書の暴露に踏み切った。また松井知事は、吉村市長と共に途中で辞任し、4月の統一地方選で知事選、市長選のトリプル選挙に打って出ることも示唆し、公明党を揺さぶる作戦に出た。

  しかし、公明党は折れるどころか、ますます反維新の態度を強めていく、業を煮やした維新側は、これまで慣例として各党の代表者が集って調整していた法定協議会の日程を会長権限で強引に決めてしまった。確かに日程は会長が決められると法定協議会の規約には書かれている。だが、これでは慣例破りとなり平穏な会議は望めない。当然、維新以外の各党が反発し、冒頭の動議騒動に発展したわけである。

  松井知事らは終了後の記者会見で「公明党は選挙目当ての私利私欲。慎重で丁寧な議論どころか完全な職責放棄だ」と批判した。だが、公明党の八重府議が提案した動議は会議をつぶすことが目的ではなく、正常な会議に軌道修正してほしいというものである。

  対立する意見を目の前にして慎重な議論を進めるためには、その会議の運営が公平・公正・中立であることが前提だろう。片方の主張、意見ばかりを聞き、反対する意見を顧みない会議の運営では、とても慎重な議論など望めない。こんな調子で時間を取って会議を進めても慎重で丁寧な議論などできるわけがない。そもそも密約文書に署名した人物が法定協議会の会長に収まっていること事態、協議会の公平な運営など期待できないし、ここにきて今井会長の議事進行にも強引さが目立つ。公明党は公平で公正な議論の場を求めたにすぎず、職責放棄でも何でもない。むしろ維新による法定協議会の八百長ぶりが目につく。

  いずれにしても今後、法定協議会はまともに開かれないだろう。となれば、「住民投票の実施」を大義に掲げた松井知事と吉村市長が任期を待たずに辞任し、統一地方選とのトリプル選挙になる可能性が非常に高い。だが、仮に知事と市長の椅子を維新が取ったとしても、中選挙区制の大阪市議会で維新が単独過半数の議席を奪うのは、まず不可能。結局、公明党の協力がなければ都構想など絵に描いた餅でしかなく、その公明党は支持母体である創価学会の了承を得て、維新と徹底抗戦の構えでいる。

  この日の荒れた法定協議会を維新の一部議員らは、自民、公明、共産を批判する材料として早くも宣伝材料に使いだした。しかし、あの法定協議会が都構想の終わりを伝えるものだと気づいた議員は何人いたのだろうか。4月の"最終決戦"まで、あと2ヶ月と少しである。 

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2019年1月24日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

神戸、宮城、東京「つなぐ」1・17
‐あの日から24年…風化のさざ波‐

  ここ2、3年、東京のホテルで西の空に向かって手を合わすことが多かったが、今年は午前5時46分、民放の特別番組を見ながら大阪の自宅で黙とうをささげた。

  先週木曜日、阪神・淡路大震災は、あの日から24年を迎えた。私も何度も足を運んだ神戸市中央区、東遊園地のつどいで竹灯籠が描きだした文字は「つなぐ」だった。平成最後の1・17、いま多くの人がこの災禍をどうやって次世代につなぐのか、心を砕いている。

  言葉は適切かどうかわからないが、私はこの震災を災害列島元年と位置づけている。初めて大勢の人が極寒のなか神戸を目指したボランティア元年であったし、あれから国の耐震基準も定着した。国費による倒壊家屋の撤去、区画整理、防災公園。その後の中越、東日本、熊本、そして昨年の北海道。これらの災害にこの震災がつないだものは数知れない。

  一方でこの日、つどいに参加された方は5万人弱、また市民による追悼行事も53件と、いずれも過去最多時の半数以下となっている。町を一望できるビーナスブリッジで20年続いてきた追悼の調べはトランペット奏者が高齢化、今年が最後となった。風化のさざ波がじわりと迫っているのだ。

  ただ私は、それを決して悲観してはいない。ある意味で、それが時の流れというものではないかと思っている。

 そんななか、この日午後2時46分、HAT神戸では、東日本大震災で妻を亡くし、神戸からのボランティアに励まされてきたという男性をはじめ、宮城県名取市閖上地区のみなさん20人が市民とともに黙とうをささげた。

  そしてつどいから12時間後の午後5時46分、今度は東京・日比谷公園で、この朝、東遊園地の「希望の灯」から取った種火を空路、東京に運んで点火したキャンドルが1・17を描いていた。15歳のとき、神戸で被災した女性たちが「東京でも黙とうを」と呼びかけ人になって、初めて開いた鎮魂のつどいだった。

  宮城から神戸へ、神戸から東京へ。縦糸が風化していくのなら、たとえ最初は細くても、横糸を広く、長く、遠くに伸ばして―。

  来年は震災から四半世紀、新元号で迎える初めての1・17。神戸は何をつなぎ、何を伝えていくのだろうか。

  鎮魂のつどいから3時間後、テレビは口永良部島の爆発的噴火を伝えていた。

(2019年1月22日掲載)

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2019年1月17日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

デタラメばかりの国のデータを質せ
‐19年 念頭に思うメディアの役割‐

  つくづく私たちは3等国家か4等国家で暮らしているのだということを思い知らされる。厚労省が従業員500人以上の全ての企業を対象に調査、失業や育児、介護などの給付金の支給額の指針としている「毎月勤労統計」が、実際には東京では3分の1ほどの企業しか対象になっていなかったことが発覚した。

  このため雇用保険などで本来の支給額より低い金額を受け取っていた人は延べ1973万人、金額は雇用保険で1人平均1400円になるという。あわてた国はその分を追加給付するとしているが、一体どうやって2000万人近い人にこの金を返すのか。手間を考えただけで気が遠くなる。結局は大半の人が泣き寝入りした消えた年金と同じことになるのではないか。

  思い起こせば、裁量労働制の実際の労働時間。外国人技能実習生の失踪理由。データはどれもうそ、デタラメ、インチキ、ごまかし。そんなとき、ふっと救われる毎日新聞の記事に出会って、今年最初の文化放送の番組、「くにまるジャパン極」で紹介させもらった。

  〈就学不明 外国籍1・6万人。100自治体〉の見出し。記事によると、全国100の自治体にアンケートしたところ、日本に住民登録し、小中学校の就学年齢にある外国籍の子どもの約2割、1万6000人が学校に通っているか確認できない「就学不明」になっているという。だが外国籍の子どもは義務教育の対象外なので、自治体の多くはそれらの子どもの状況を把握していないという。 記事を読んで昨年秋、外国人労働者が数多く暮らす群馬の中学校教師の言葉を思い出した。「3者面談といっても働いているお母さん、それに通訳さんの都合をつけていると、子どもをまじえて夜の8時9時の面談になることもあります。そのうち親も子も学校から遠ざかってしまって…」。

  こんな状況なのに、国は今年4月からいきなり34万5000人の外国人労働者を受け入れるという。果たして今度はこの外国人の実態に、どんな調査結果を出してくることやら。

  国が、役所が、こうだからこそ、毎日新聞のような地味だけど地道な調査報道がいぶし銀のように光って見える。メディアの役割をあらためて思い知らされる2019、年の初めである。

(2019年1月15日掲載)

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2019年1月10日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

人間のなす業に手も足も出ぬ千年の古都
‐災害にも明るいご住職や宮司さんだが‐

  今年初めてのコラム、本年もどうぞよろしく。さて、お正月はいつもどおり京都。ただ、天皇退位まで4カ月ということもあってか、天皇と京都がより色濃く感じられる初春だった。

  ホテルからちょっと足を伸ばした紫式部源氏物語執筆地の盧山寺。寺史には「現在の本堂は光格天皇が仙洞御所を移築し」と、今上天皇からさかのぼること202年、生前退位された天皇のお名前が出てくる。拝観させてもらった寺社仏閣の沿革には勅命、ご下賜といった言葉が、さりげなくではあるけど何度も出てくる。

  ただ、そんな京都が去年受けた打撃は、私たち旅の者の想像をはるかに超えていた。9月の台風21号。周山街道を上った京北は北山杉が幾重にも倒れている。植林したとしても銘木になるには、数十年かかると聞く。その前に立ち寄った白椿で名高い平岡八幡宮は社領地の裏山で樹齢100年を超える古木を含め250本が根こそぎ倒れたという。足を運んだ寺社の多くが「緊急のご寄進を」の立て看板を出していた。

  6月に大阪北部を襲った地震。洛南のお寺では、鐘撞き堂の瓦がずれて除夜の鐘を見送ったという。

  だけどこんな深刻な事態に、ご住職も宮司さんも意外と明るい。「京都は千年の古都どす。その間、何百年、いや何十年に1度は大変な自然災害におうとるんです。それを乗り越えていまがあるんやないですか」。 「それよりも」と、住職たちを悩ませているのは今年のエトのイノシシにシカ、それにサルだ。イノシシはミミズを狙って寺院のコケを片端から掘り起こし、名庭園を台無しにする。シカは境内を踏み荒らし、サルは山里のカキ、ミカンを抱えて走る。

  もちろん数が増えすぎたこともあるのだが、イノシシやサルが食べる木の実をつける落葉樹のブナやナラを切ってスギ、ヒノキを植林。それがお金にならないとなると、そのまま放置林に。食べ物を奪われたイノシシやサルは人里を襲い、スギなどの若芽が大好きなシカは爆発的に増えた。

  台風や地震、自然がもたらす災害はたくましく、しなやかに乗り越える古都も、数十年、いや数年先しか見えない人間のなす業には手も足も出ない。そんなことを教えられた、平成最後の古都の初春だった。

(2019年1月8日掲載)

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