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2018年12月24日 (月)

Webコラム 吉富有治

焦りの裏返し? 松井知事が出直し選挙に!? 党利党略の選挙など有権者には大迷惑

  大阪のクリスマスイブは早朝からきな臭い話から始まった。12月24日の毎日新聞朝刊は1面トップで「大阪知事・市長 辞職意向 統一選同日公算大 都構想住民投票問う」という派手な見出しをつけ、大阪府の松井一郎知事と大阪市の吉村洋文市長が来年12月の任期満了を待たず、来年春の統一地方選前に辞任するという記事を載せていた。記事のとおりなら統一地方選は府知事選と市長選のトリプル選挙になる。全国でもあまり例のない事態だろう。

  松井、吉村の両トップが任期前に辞職し、統一地方選と同日に出直し選挙することは以前から噂されていた。松井知事や周辺がせっせと噂をばらまき、担当記者などにも出直し選を臭わせていたからだ。当然、大阪の自民党や公明党、共産党、また市民団体や各種労組もその情報はつかんでいた。ただ、その段階では真偽不明の未確認情報だったが、今回の毎日新聞の記事で本決まりになったと私はにらんでいる。トリプル選挙は、まず実施されるだろう。

  私は前回12月21日のコラムで、いわゆる大阪都構想の住民投票を来年夏の参議院選と同日におこなうため、あの手この手で松井知事が公明党を揺さぶっていることを記事にした。また公明党にも住民投票のスケジュールをめぐって知事に弱みを握られているものの、表面的には同日選には応じない強気の姿勢であることも伝えた。今回、公明党はその姿勢を崩さなかったようだ。だから毎日新聞が伝えたように、破れかぶれになった松井知事が統一地方選との出直し選を言い出した。
 
  もっとも、毎日新聞の記事は出直し選のみに重点が置かれているのではない。最大のポイントは「このため、ダブル選は松井知事、吉村市長の出直し選とは限らず、吉村市長の知事選出馬案など、別の候補になる可能性もあるという」の部分。つまり出直し選ではなく、変則的な選挙になる可能性が高いのだ。

  予想されるのは、吉村市長は府知事選へコンバート。一方、松井知事は来年夏の参院選大阪選挙区に維新2人目の候補になるというものだ。このときは維新も市長選に新たな候補者を出す必要に迫られる。そうでもしないと、かえって維新に逆風が吹く。なぜなら、統一地方選とのトリプル選挙で松井知事が知事選に出馬し、吉村市長が市長選に出馬してダブルで再選しても、公職選挙法の規定で約7ヶ月後の来年11月には再び府知事選と市長選のダブル選挙がおこなわれることになる。これほど税金の無駄使いもなく、有権者から維新が批判を浴びるのは間違いない。それを避けるために両トップは変則的な選挙に打って出るのだ。これなら任期は一からスタートだからだ。

  もし松井知事が参院選の候補になれば、大阪における過去の国政選挙での維新の総得票数を見る限り、維新は2名の候補者を当選させることは十分に可能だと思われる。しかも、松井知事は2025年大阪万博の誘致を成功させた功労者だと世間は見ている。そうなると定員4名の大阪選挙区の中で割を食うのは2名の候補者を出すことを決めた自民党、そして候補者1名を応援する公明党だろう。もし維新が2名を当選させた場合、残りは2議席。自民党と公明党の計3名の候補者が残り2議席を争うことになるが、共産党や立憲民主党などの野党が1名でも当選者を出すようなら、公明党はさらに苦しい戦いを強いられる。

  公明党にとって次の参院選に勝つことは支持母体である創価学会からの至上命令。絶対に負けるわけにはいかない。そこを熟知した松井知事は「それが嫌なら参院選と同日の住民投票に賛成しろ」と公明党に迫る作戦なのだ。

  さて、一般的に知事や市長、町長らの「出直し選挙」というのは単なる首長選挙にとどまらず、信任投票の意味が強い。各自治体でおこなわれた過去の出直し首長選をみても、「私はこのような政策を実行したいのだが議会の反対に遭ってできない。そこで出直し選挙で有権者の皆さんの信任を得たい」というものが大半だ。だから先にも書いたように公職選挙法でも例外を設け、出直し選に出馬した前首長が当選した場合、その任期は選挙前のものと変わらないと定めている。一般の首長選と違って出直し選は信任投票の性格が強いから、わざわざ任期をリセットする必要はないだろうという判断からである。

  もし松井、吉村の両首長がそろって来年春の出直し選に臨んだとして、その根拠とはいったい何か。明らかに住民投票の実施時期をめぐる問題だろう。両首長が考える日程に維新以外の政党が反発し、だったら出直し選挙で民意を問い、両首長が訴える日程の信任を得るというものである。なるほど、これならまだ大義名分はある。

  だが、松井知事と吉村市長が任期前に辞任したとして、その結末が吉村市長は府知事選にくら替え、松井知事は参院選に出馬だとしたらどうなるのか。統一地方選で維新に追い風を送ることが本音だとしても、客観的に見れば両者は有権者から信任を得るために辞めるのではなく、首長の職を途中で放り投げたことになる。これでは大義名分もヘッタクレもない。自分たちの都合で選挙をおもちゃにしているだけの愚行だろう。

  なお、この事態について公明党大阪本部の関係者は「勝手にどうぞ」と冷めた目で突き放し、自民党大阪府議団の花谷充愉幹事長は「松井知事らの出直し選挙は想定済み。むしろ統一選との同時選挙は維新を終わらせる絶好のチャンスだ」と挑発に応じる構えだ。

  松井知事の党利党略にも呆れるが、そんな愚行につきあわされる大阪府民、大阪市民こそ大迷惑な話である。 

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