日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏
ゴーン容疑者捜査こそクリーンに
‐東京地検のとった「禁じ手」‐
事件捜査とスポーツを一緒にしたら叱られそうだが、取材者の目から見ると、よく似ていると感じることが多い。
同じ勝ち試合にしても、みんなが「おおっ」と声を上げるようなフェアな試合。一方でルール違反にはならないくらいのラフプレーもまじえて、とにかく勝ちにいく。試合に負けたら元も子もないのだから、たしかにそれも、ありだ。 だが、天下の東京地検特捜が天下の日産前会長、ゴーン容疑者の身柄を取ったのだから、捜査の王道を行ってほしいのに、地検はゴーン容疑者を特別背任容疑で逮捕する策に出た。役員報酬の一部を報告書に記載しなかった虚偽記載の2度目の逮捕容疑について地裁が勾留を却下するという予想もしない事態に打って出た3度目の逮捕。苦肉のプレーであることは間違いない。
私は虚偽記載があった過去8年分を5年と3年に分けて再逮捕したとき、ニュース番組で「同じ事件を小分けにして再逮捕する。それが特捜のやることか」と厳しく批判させてもらった。
もちろんこれは理屈の上だが、50件も余罪がある泥棒を1つの盗みごとに逮捕勾留を繰り返していたら、3年以上身柄を押さえることだって可能なのだ。違法ではないが、絶対にやってはならない禁じ手だ。
地検は1つを2つに割っただけというかもしれないが、5年分を起訴した段階で、残る3年は追起訴することとして、なぜその時点で本丸の特別背任で逮捕しなかったのか。だから海外メディアから「粗暴な人質司法」とまで言われるのだ。
ただし間違えてもらっては困ることがある。私は、地検特捜の手法を批判しているのであって、決して捜査そのものを否定しているわけではない。日産の経営立て直しという大義名分のもと、2万人もの従業員に血涙を流させ、その裏で90億円もの報酬をひた隠し、投資で失敗しそうになると18億円もの損失を日産に付け替える。どこがゴッドハンドなのだ。カネカネカネにまみれたダーティ―ハンドではないか。だからこそ検察はクリーンに、フェアに勝負してほしいのだ。
そして平成が去りゆく来年こそ、わが日本は、政も官も財界も、もちろん民間も、澄み渡るほどクリーンな風土であってほしい。
少し早いのですが、みなさまどうぞ良いお年を─
(2018年12月25日掲載)
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