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2018年11月 1日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

「伝えたい」安田さん支えた思い
‐プロパガンダで戦争を語っていいのか‐

  シリアで拘束された安田純平さん(44)本人と確認されたという一報が届いたとき、妻の深結(みゅう)さんはテレビ朝日スーパーJチャンネルのスタッフルームにいた。大急ぎでスタジオに入り、テーブルに額をつけんばかりにして「みなさまのおかげです」と言うその目に、涙があふれていた。

  3年4カ月にわたる拘束。最初は畳1畳ほどの部屋に監禁され、身動きどころか関節の音さえたてるなと強要された。精神に異常を来してもおかしくないなか、深結さんの夢に出てきた安田さんは「伝えたい、伝えるんだ」と叫んでいたという。その思いが安田さんを支え続けたに違いない。

  テレビなどで何度もご一緒したが、「もちろん、ぼくたちが伝えることは現実に起きていることの何万分の1です。でもこの目で子どもや女性の姿を見ないで戦争は伝えられない」という姿勢は変わらなかった。取材に向かうとき、安田さんは深結さんに必ず「責任はすべて自分が負うから」と言って出かけたという。

  とはいえ、シリアへの渡航自粛を求める外務省や警察庁の説得を振り切っての入国。加えて2004年のイラクに続いて2度目の拘束とあって、前回ほどのバッシングではないにせよ「自己責任」の批判はある。

  ならば私たちは、体制派、反体制派、ゲリラ部隊、テロ組織、それらが自分たちの都合に合わせて流すプロパガンダで「戦争」を語っていいのか。悩ましい問いかけが、今回もまた際限なく繰り返される。

  そんなとき、安田さんたちがイラクで解放されてしばらくしてから、一緒に拘束されていた高遠菜穂子さんも出席して開かれたシンポジウムを思い出す。安田さんが撮影した無差別空爆のあと、高遠さんが駆けつけた病院の包帯だらけの赤ちゃん、爆撃で両親を失ってストリートチルドレンになってしまったイラクの子どもたち。高遠さんは、自分たちが伝えることができるのは戦争で起きたことのほんの一部、微々たるものだという。だけど、その微々たるものを積み重ねていくしかない。最後の言葉を高遠さんはこう結んだ。

  「でも忘れないでほしいのです。微力であっても、無力ではないのです」

  なにがあっても、その微力をなくしてはならない。私の、答え探しも続く。

(2018年10月30日掲載)

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