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2018年11月 8日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

「人権上の配慮」とは?
‐大阪・寝屋川「中1男女殺害」裁判‐

  ABCテレビ(大阪)の「キャスト」で大阪地裁前からのリポートを聞いて、胸の底に沈殿していた事件へのどす黒い思いが湧き上がってきた。2015年8月お盆のころ、大阪府寝屋川市で朝方、駅前にいた中学1年の女子生徒(当時13)と同級生の男子生徒(同12)が行方不明になり、惨殺体や白骨死体となって見つかった事件で殺人罪に問われた山田浩二被告(48)の裁判員裁判が始まった。

  ガランとした早朝の商店街、あどけなさの残る2人が寄り添うようにしている防犯カメラの映像がいまも目に焼きついている。そんな2人を殺害したとされる山田被告は公判でやりたい放題、言いたい放題。開廷間なしに裁判長の制止も聞かず、土下座してついたての向こうにいる被害者遺族に「すみませんでした」。

  だが、審理が始まると、男子生徒は「車の中でけいれんを起こして息をしなくなった」。女子生徒については「騒いだので口をふさごうとして気がついたら、手が首にふれていた」。また全身の刃物の傷は「ショックを与えて生き返らそうとした」と、殺意を全面的に否定した。

  裁判員の同情を買おうとした土下座に、荒唐無稽としか言いようのない主張。だが、こんな被告との争点の整理や精神鑑定をめぐって裁判が始まるまで、じつに3年以上かかっているのだ。そしてやっと開かれた公判で出てきたのがこの弁解だ。

  その山田被告は、これまで中高の男子生徒を車に連れ込んで性器を傷つける犯行を繰り返し、寝屋川事件の前は12年の懲役刑で服役していた。だが、「人権上の配慮から」この忌まわしい前科にふれたテレビニュースは、私の知る限りない。

  そんな折、中日新聞静岡支局の記者から、19歳の男が集団登校の小学生を無差別に襲って男児に重傷を負わせた事件について意見を聞かれた。この事件で静岡家裁は男を少年院送りに決定。だが、保護者や学校が事件の動機、そして何より社会復帰の時期について不安を抱いているのに、家裁はそれらすべてを非公表とした。

  記者によると、家裁はその理由を19歳少年に対する「人権上の配慮から」としているという。ここでもまた「人権」だ。このままでは人権は、ただうっとうしいものになってしまう。そんな気がしてならないのだが。


(2018年11月6日掲載)

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