万博失敗なら府市のダブル破産 だからこそ都構想の議論は保留に
1970年の大阪万博に続き、大阪では2度目の万博が2025年5月3日から11月3日までの185日間、大阪湾に浮かぶ人工島・夢洲で開かれることになった。テーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。会場では最先端技術を駆使したAI(人工知能)や仮想現実などが体験できるという。
ところが高尚なテーマがあるにもかかわらず、聞こえてくるのはカネの話ばかり。経産省や財界からは「経済波及効果は2兆円以上」「目標とする総入場者2800万人は確実だ」といった声が聞こえ、直接的な恩恵を受けるゼネコンやホテル業界はニヤけた顔でソロバンを弾いている。
だが、これでは趣旨があべこべだ。「国際博覧会条約」の第一条定義には「1.博覧会とは、名称のいかんを問わず、公衆の教育を主たる目的とする催しであって、文明の必要とするものに応ずるために人類が利用することのできる手段又は人類の活動の一若しくは二以上の部門において達成された進歩若しくはそれらの部門における将来の展望を示すものをいう。」と明記されている。
あくまでも万博の目的は「公衆の教育」や「将来の展望を示す」ことであって経済波及効果は結果論にすぎない。それが口を開けば「2兆円は儲かる」「いや、それ以上だ」とカネの話ばかりでうんざりする。
つけ加えておくが、万博で儲かるのは過去の話である。立候補していたフランスが辞退したのは採算が取れないと判断したからだ。万博がそれほど儲かるのなら、なぜロシア、アゼルバイジャン、日本の3カ国だけしか手をあげなかったかを考えればいい。
一方、誘致を成功させた大阪府の松井一郎知事と大阪市の吉村洋文市長は鼻息が荒い。ロシアとアゼルバイジャンに競り勝ったのは「府市が一体化した成果。やはり大阪都構想は必要」だと訴え、早くも万博を政治利用している。2015年5月17日の住民投票で一度は否決された都構想が、万博誘致の成功で大阪維新の会には追い風となり、ここで2度目の住民投票をすれば確実に勝てると見込んで強気になっているのだろう。
しかし、私の意見は違う。現在、「大都市制度(特別区設置)協議会」(以下、協議会」)で議論されている都構想はいったん棚上げになるとにらんでいる。万博と都構想を同時に並走させるのは予算や人員配置の面からも難しいからだ。本気で万博を成功させるつもりなら、むしろ都構想の議論を中断しないといけないだろう。
今は万博の誘致に成功したと喜んでいる大阪府と大阪市だが、これからは様々な問題点が浮き彫りになってくる。万博関連の予算などをチェックする大阪府議会と大阪市議会には難題が押し寄せ、そのうち両議会は衝突すると予測している。
万博を成功させるためには様々なハードルがあるが、中でも最大の問題は財政的な裏づけをどうするかだ。
まず、会場整備費の1250億円。果たしてこれだけで済むのだろうか。2020年東京オリンピックのように、いつのまにか2倍3倍と膨らむ可能性はないのか。
1250億円は国と自治体、企業の三者で分担することが決まっている。それぞれ約416億円ずつだが、特に財政が厳しい大阪府には負担が重い。416億円がさらに膨らむと、「少しは財政に余裕がある大阪市が肩代わりしてくれ」と大阪府が言い出すとも限らない。そうなると市議会の反発は必死である。
次に交通インフラだ。舞洲会場には既に地下トンネルが開通しており、ここに地下鉄を延伸させる必要がある。その総額は約640億円。この負担も大阪市だけで、大阪府は負担ゼロ。府市はIR・カジノ業者に肩代わりさせるつもりだが、確実に決まっているわけではない。また約640億円という数字も試算にすぎず、さらに増えることも考えられる。その場合、大阪市だけの負担でいいのかと、こちらも府と市の火種になる可能性が高い。
2800万人の総入場者を目標とするなら、1日あたりの入場者数は約15万人。これだけの人数を地下鉄だけで運ぶのは不可能で、当然、夢洲へ渡る橋や道路の拡張整備も必要だ。その額は40億円以上と言われるが、大阪府と大阪市のどちらが負担するかも決まっていない。他にもJR線の延伸も計画され、府市が一部を負担することも検討されている。
一事が万事、この調子。他にも課題はまだまだ山積しており、「万博が大阪にやって来た」と浮かれている場合ではない。そこに都構想を加えると、さらに最低でも700億円ほどの予算が必要となる。万博のコストに加えて都構想のコストまでが大阪府と大阪市に重くのしかかるのだ。両方が失敗なら府と市のダブル破産である。
しかも、都構想の青写真を作る協議会では維新と自民、公明、共産各党との対立が激しく議論は停滞したまま。いつ設計図が完成するのか、まったく先が見通せない。そのうえ、協議会には大阪府と大阪市から優秀な役人が派遣され、人件費も加えるとこれまで莫大な税金が使われている。
政府は近々、「25年日本国際博覧会協会」を立ち上げるという。そこには当事者である大阪府と大阪市から役人も派遣される。と同時に、大阪府と大阪市でも万博に向けた専門部局を立ち上げ、府市の両議会も普段の公務以外に万博のための議論が加わることになる。議員も寝るヒマがなくなるだろう。
繰り返しになるが、2025年大阪万博を成功させたいのなら都構想の議論はいったん棚上げにし、そのマンパワーと税金を万博のために一点集中すべきだろう。二兎を追う者は一兎をも得ず。「万博も、都構想も」と欲張っていると、いずれ共倒れになるだけだ。