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2018年10月 4日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

メディアの川上は澄んでいないと
‐伝統ある出版社の「新潮45」廃刊‐

  メディアの中の川上、川下論を唱えたのは、亡き筑紫哲也さんだった。山奥に源を発し、細いけれど清冽な流れ。その川上に位置するメディアが伝統ある出版社の総合雑誌。岩波書店の「世界」だったり、「月刊文藝春秋」、それに季刊や旬刊の論壇誌、学術誌。そこでささやかに展開された主張や論調は、やがて野に下り、源流にくらべてはるかに多くの人々の耳目にふれる。それが新聞であろう。

  そこから流れはゆったりとした川下に。真水に海水が流れ込み、広い河口には俗っぽいものも入り込んでいる。それが筑紫さんも深くかかわったテレビであり、時には週刊誌だろう。だからこそ源に湧き出る水は澄んでいなければならない。清冽な源流に邪悪なものを流し込んではならない。

  総合雑誌のひとつ、月刊の「新潮45」が休刊となった。新聞の休刊日とは、わけが違う。再び刊行されることがない、廃刊である。性的少数者を罵倒、誹謗する女性国会議員の寄稿を擁護する特集を10月号で展開、ついに廃刊に追い込まれた。

  私たちメディアにかかわる者にとって、ペンを奪われる事態はあってはならない。だが今回ばかりは私もコメントで廃刊を主張し続けた。女性議員擁護の寄稿の中から、「約束の日―安倍晋三試論―」などの著書のある文芸評論家の一文をかなりの方に読んでいただいた。

  〈満員電車に乗った時に女の匂いを嗅いだら手が自動的に動いてしまう、そういう痴漢症候群の男の困苦こそ、極めて根深ろう(中略)彼らの触る権利を社会は保障すべきでないのか〉

  ラジオのスタジオでこの一文を聞いてくれた女性アナは、許されるなら席を立ちたい気配だった。小学生の女の子を電車通学させているお母さんは読むなり、顔を青ざめさせていた。男性とてメモを破らんばかりに突っ返してきた人もいた。

  メディアの川上でこんなものを流し込まれてはたまらない。川は腐臭を放つ。ここは廃刊の道しかなかった。だが同時に私は廃刊ですませてはならないとも感じている。コメントを依頼されたりして知り合った新潮社の編集者には素晴らしいセンスの方が多い。そんな編集者が源流に澄みきったしずくを一滴注ぎ込んで、新たな潮流に乗った総合雑誌を発刊する─。いまは、その日を待ち望んでいる。

(2018年10月2日掲載)

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