日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏
あの町25年前を思い出す就労拡大
番組でこのテーマにコメントしながら、これはいつか見た光景、新聞記者の警察(サツ)回り時代を思い出した。安倍政権は日本がかたくなに拒んできた外国人労働者の受け入れを認めることにした。考えが変わったのではない。背に腹は代えられなくなったのだ。
さまざまな抜け道があったとはいえ、日本は単純労働、しかも5年以内でしか外国人の就労を認めてこなかった。それが今後は建設、農業、宿泊、介護、造船の5分野で、これまでの5年を超えたあとも経験を生かして仕事を続けられることになった。さらに日本語や技術力の試験に合格した外国人も、家族帯同で在留資格を更新しながら日本で働けることにする。
一大方針転換の要因はなにか。言うまでもなく、いまも、そしてこれからも続く深刻な労働力不足だ。なにしろ在留外国人は、すでに256万人。この1年で18万人も増えているのに、大変な人手不足。さらに少子化で、いま6600万人の労働人口は20年後には5100万人になるという。そこで「お願い、外国人」となったのだ。
それがなぜ、私の「いつか見た光景」なのか。40年以上前、サツ回りの記者だった私の持ち場は大阪のあいりん地区、釜ヶ崎と呼ばれた日雇い労働者の町だった。わずか1平方㌔㍍ほどの地域に多いときは4万人もの労働者がひしめき、早朝から道路や橋、ビルの工事現場へと雇われていく。だが、この町は景気の調節弁だ。東京五輪や大阪万博、それにバブル景気、そんな時、町は沸きに沸く。その一方で、不況のしわ寄せも真っ先にこの町にやってくる。
1円のお金も入ってこないアブレと呼ばれる日が続くと、ちょっとしたもめ事が暴動に発展する。放火、投石、機動隊との衝突、荒れ狂った夜が続く。もちろん、暴力は許されない。ただ猛暑や極寒のときも“タコ部屋”と呼ばれる作業員宿舎に押し込まれ、不況となれば有無を言わさずたたき出される。取材する私たちに飛んできた「わしらかて人間やぞ」という涙まじりの怒声が、いまも耳に残っている。
これまでは働きたくて残っていた人も不法滞在で強制送還していた国が、手のひら返しの就労拡大。その心根に、どうしても四半世紀前の、あの町の光景を思い出してしまうのである。
(2018年10月23日掲載)
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