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2018年9月20日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

どの面下げて「廃港」伊丹増便
‐関空危機広げた政治行政‐

  先週のこのコラムに猛烈な台風21号の直撃、その直後の北海道大地震、つくづく私たちは災害列島の中にいると思い知らされると書いた。その災害から市民を守り、防災、減災につとめるのが、この国の政治、行政の大きな役割であることは言うまでもない。だけど時として政治や行政の思慮の浅さ、愚かさが災害をより深刻なものにしている。その典型が台風禍の関西だ。

  滑走路が高波で水没、加えて鉄道道路併用橋の空港橋にタンカーが激突、完全にマヒ状態となった関西空港。総理のご意向もあって2日後に飛行機は飛ばしたが、アクセスは橋の片側車線のみ。完全マヒが、ほぼマヒに変わっただけだ。この関空、昨年度は訪日外国人の実に26%が利用していたというから、関西だけでなく国にとっても大打撃だ。

  そんな基幹空港が道路も鉄道もガス、水道もみんな1本の橋に頼る綱渡り。そのもろさがもろに出た。そこで手っとり早い解決策として国と府が出してきたのが、伊丹、神戸両空港の増便だが、はっきり言っていくらあっけらかんとした関西人でも、「どの面下げて」と言いたくなるはずだ。

  なんと言ったって、わずか8年前のこと。国が巨費を投じて開港した関空は飛行機よりも日がな閑古鳥が飛んでいるさびれぶり。私もそうだが、大阪の中心部までわずか30分の伊丹空港に国内線の客が集中するのは自明の理。なんとかしたいと焦る国と、その尻馬に乗った当時の橋下徹知事。あろうことか、府議会で「伊丹をつぶしてまえば、しょうことなしにみんな関空に来るやろ」と、なんと「関空のハブ化実現、伊丹の中長期的廃港を考える」決議案を可決してしまったのだ。

  だけど、車でも電車でも大阪市内から1時間半はかかる関空に国内線の客が足を向けるわけがない。伊丹はその後も新装、改装で大発展。とはいえ、もし決議通り伊丹が中長期的に廃港となっていたら、今回、日本第2の都市、大阪は空の便すべてが遮断されるところだった。羽田にも成田にも飛行機が来ない首都圏を想像してみてほしい。

  政治や行政の思慮の浅さ、その場限りの思いつき。それが災害をどれほど、より深刻なものにしてしまうことか。

  災害は、忘れたころに、忘れもしない政治の愚かさを連れてやってくる─

(2018年9月18日掲載)

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