日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏
ほのぼのとした納税もいいな
‐ふるさと納税 名古屋バージョン‐
別段PR大使を仰せつかったわけでもないが、テレビのコメントや週刊誌の原稿では喧伝にこれ努めてきたのに、オット、このコラムでは1度もふれていないことに気がついた。いま何かと騒がしいふるさと納税、その名古屋バージョンだ。
住民税を住んでいる自治体ではなく、生まれ育ったふるさとや大好きな町や村に納めたい。そんな思いに寄り添って10年前にスタートしたふるさと納税。当初は80億円程度だったものが、昨年度は、なんと3600億円、納税者300万人というフィーバーぶりだ。だけどこの人気の源は、ふるさとへの熱い思いは吹っ飛んで、豪華豪勢破格の返礼品にあることは間違いない。
「納税額の3割以内、地域ゆかりの産品を」という総務省の通達なんて知るものか。冷蔵庫にテレビといった家電製品に航空券、さらにはすき焼きセット。なかにはケーブルテレビの1日キャスターといった「?」だらけのものまである。
業を煮やした総務省。通達違反の市町村には、この税制を認めないとする法案を来年、国会に提出すると発表した。とはいえ、「これといった産業もないわが町わが村に、どうしろと言うのか」と反発も強く、当分、総務省と市町村のにらみ合いが続きそうだ。
で、話は最初に戻って、私が喧伝に、これ努める名古屋バージョン。名古屋市は2年前からこのふるさと納税を利用して、動物愛護センターが「目指せ殺処分ゼロ! 犬猫サポート」を始めている。寄せられたお金は預けられた犬猫の餌代やミルク代、それにペットシートの購入に当てられるので、これまで一定期間を過ぎると命を奪われていた犬猫が気長に新しい飼い主を待つことができるのだ。
ネコちゃんは残念ながらまだだが、ワンちゃんは数年前まで年に数十匹が処分されていたものが、ふるさと納税を利用し始めた2016年から、きょうまでゼロを達成し続けている。この“偉業”を「人生、いつでも、どこでも、ワンちゃんと一緒」の私が、どうして黙って見ていられようか。
もちろん航空券もすき焼きセットもありがたい。だけど安心しきったワンちゃん、ネコちゃんのつぶらな瞳、やがて静かな寝息。それを囲んだ家族のはじける笑顔。そんなほのぼのとした納税もいいな、と思うのだ。
(2018年9月25日掲載)
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