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2018年9月

2018年9月27日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

Photo_12  Photo_13  ほのぼのとした納税もいいな
  ‐ふるさと納税 名古屋バージョン‐

  別段PR大使を仰せつかったわけでもないが、テレビのコメントや週刊誌の原稿では喧伝にこれ努めてきたのに、オット、このコラムでは1度もふれていないことに気がついた。いま何かと騒がしいふるさと納税、その名古屋バージョンだ。

  住民税を住んでいる自治体ではなく、生まれ育ったふるさとや大好きな町や村に納めたい。そんな思いに寄り添って10年前にスタートしたふるさと納税。当初は80億円程度だったものが、昨年度は、なんと3600億円、納税者300万人というフィーバーぶりだ。だけどこの人気の源は、ふるさとへの熱い思いは吹っ飛んで、豪華豪勢破格の返礼品にあることは間違いない。

  「納税額の3割以内、地域ゆかりの産品を」という総務省の通達なんて知るものか。冷蔵庫にテレビといった家電製品に航空券、さらにはすき焼きセット。なかにはケーブルテレビの1日キャスターといった「?」だらけのものまである。

  業を煮やした総務省。通達違反の市町村には、この税制を認めないとする法案を来年、国会に提出すると発表した。とはいえ、「これといった産業もないわが町わが村に、どうしろと言うのか」と反発も強く、当分、総務省と市町村のにらみ合いが続きそうだ。

 で、話は最初に戻って、私が喧伝に、これ努める名古屋バージョン。名古屋市は2年前からこのふるさと納税を利用して、動物愛護センターが「目指せ殺処分ゼロ! 犬猫サポート」を始めている。寄せられたお金は預けられた犬猫の餌代やミルク代、それにペットシートの購入に当てられるので、これまで一定期間を過ぎると命を奪われていた犬猫が気長に新しい飼い主を待つことができるのだ。

  ネコちゃんは残念ながらまだだが、ワンちゃんは数年前まで年に数十匹が処分されていたものが、ふるさと納税を利用し始めた2016年から、きょうまでゼロを達成し続けている。この“偉業”を「人生、いつでも、どこでも、ワンちゃんと一緒」の私が、どうして黙って見ていられようか。

  もちろん航空券もすき焼きセットもありがたい。だけど安心しきったワンちゃん、ネコちゃんのつぶらな瞳、やがて静かな寝息。それを囲んだ家族のはじける笑顔。そんなほのぼのとした納税もいいな、と思うのだ。

(2018年9月25日掲載)


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2018年9月20日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

どの面下げて「廃港」伊丹増便
‐関空危機広げた政治行政‐

  先週のこのコラムに猛烈な台風21号の直撃、その直後の北海道大地震、つくづく私たちは災害列島の中にいると思い知らされると書いた。その災害から市民を守り、防災、減災につとめるのが、この国の政治、行政の大きな役割であることは言うまでもない。だけど時として政治や行政の思慮の浅さ、愚かさが災害をより深刻なものにしている。その典型が台風禍の関西だ。

  滑走路が高波で水没、加えて鉄道道路併用橋の空港橋にタンカーが激突、完全にマヒ状態となった関西空港。総理のご意向もあって2日後に飛行機は飛ばしたが、アクセスは橋の片側車線のみ。完全マヒが、ほぼマヒに変わっただけだ。この関空、昨年度は訪日外国人の実に26%が利用していたというから、関西だけでなく国にとっても大打撃だ。

  そんな基幹空港が道路も鉄道もガス、水道もみんな1本の橋に頼る綱渡り。そのもろさがもろに出た。そこで手っとり早い解決策として国と府が出してきたのが、伊丹、神戸両空港の増便だが、はっきり言っていくらあっけらかんとした関西人でも、「どの面下げて」と言いたくなるはずだ。

  なんと言ったって、わずか8年前のこと。国が巨費を投じて開港した関空は飛行機よりも日がな閑古鳥が飛んでいるさびれぶり。私もそうだが、大阪の中心部までわずか30分の伊丹空港に国内線の客が集中するのは自明の理。なんとかしたいと焦る国と、その尻馬に乗った当時の橋下徹知事。あろうことか、府議会で「伊丹をつぶしてまえば、しょうことなしにみんな関空に来るやろ」と、なんと「関空のハブ化実現、伊丹の中長期的廃港を考える」決議案を可決してしまったのだ。

  だけど、車でも電車でも大阪市内から1時間半はかかる関空に国内線の客が足を向けるわけがない。伊丹はその後も新装、改装で大発展。とはいえ、もし決議通り伊丹が中長期的に廃港となっていたら、今回、日本第2の都市、大阪は空の便すべてが遮断されるところだった。羽田にも成田にも飛行機が来ない首都圏を想像してみてほしい。

  政治や行政の思慮の浅さ、その場限りの思いつき。それが災害をどれほど、より深刻なものにしてしまうことか。

  災害は、忘れたころに、忘れもしない政治の愚かさを連れてやってくる─

(2018年9月18日掲載)

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2018年9月13日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

府警現場は疲労…幹部が頭下げれば
-大阪北部地震 富田林逃走 台風‐

  6月の大阪北部地震のとき、このコラムに大災害の被災地にはたいてい取材に行っているが、まさか豊中市のわが家が被災地になるとは思っていなかったと書いた。その大阪が今度は台風21号で、私が知る限り、これまでにない大きな被害。そんな恐怖も覚めやらぬまま、北海道で震度7の大地震が起きた。つくづく私たちは災害列島のなかにいることを思い知らされる。

  台風被害で何より困ったのは長時間の停電。台風が駆け抜けた翌日夜、東京から戻るとわが家の一帯は真っ暗。作動しなくなった信号機の下で5人ほどの警察官が赤色灯をかざして懸命に車を誘導。近くに止めた車には交代要員の警官の姿が見えるが、どの顔も疲弊しきっているように見える。

  決して私の気のせいではない。新聞、テレビの記者に聞くと、大阪府警の一線の警察官の疲労と緊張は、ほぼ限界にきているという。西日本豪雨禍の応援派遣がまだ続いていた8月12日、富田林署の留置場から強制性交罪などで勾留中の樋田淳也容疑者(30)が逃走。行方がわからないまま、この台風被害となった。

  その樋田容疑者が逃げ出して、あすでまる1カ月。この間、府警は全警察官2万4000人のうち連日3000人、これまで延べ10万人の一線警察官を動員している。だけど、私が不可解でならないのは、これまでただの1度も府警幹部から府民に向けた説明と協力要請がないことだ。

  逃走翌日に実家付近に現れた、兵庫県尼崎市の知人の自転車に置き手紙をした─。そんな情報を小出しにしていれば、メディアは飛びついてくると思っているかもしれないが、それもせいぜい1カ月。報道量は日増しに減っていく。
 
  ここは幹部が打ちそろってカメラの前でおわびするとともに、空き倉庫やガレージをお持ちの方は、ぜひ見に行ってほしい、コンビニやスーパーなどは、毎日、防犯カメラの映像をチェックして情報を寄せてもらいたい、といった協力を求めるべきではないか。

  自らの失態は自ら解決するという幹部の意地はわからなくはない。だが、ことここに至って880万大阪府民、2100万近畿圏のみなさんの目と耳をぜひ貸してほしいと頭を下げるのは、決して恥ずかしいことではないと思うのだ。

(2018年9月11日掲載)

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2018年9月 8日 (土)

緊急Webコラム 吉富有治

知事失格!
台風被害がまだ残る大阪を離れ沖縄県知事選に首を突っ込む松井知事 

  猛烈な勢力を持った台風21号は4日昼ごろ、徳島県南部に上陸し、その後は全国各地に大きな傷跡を残して過ぎ去った。

  特に大阪の被害は深刻だった。府内南部では強烈な暴風雨で電柱が根こそぎ倒れ、飛んできた瓦や屋根が電線を切断し、台風翌日の5日午前9時の段階で、関西電力の管内では約218万3000軒で停電が発生した。関西国際空港では高潮の影響で滑走路や空港建物の一部に海水が入り込み、空港機能は完全に停止。タンカーが連絡橋にぶつかったことで、空港内では6日未明まで職員と利用客の約8000人が取り残されていた。

  かつてない規模の台風被害に遭った大阪府では、今も府庁や府内の各自治体の職員が、また大阪府議や府内43市町村の市議、町議らが政党を問わず住民のために必死に走り回っている。

  ところが、行政職員や議員が台風被害の状況把握とトラブル解決に奔走する一方で、なにをやっているのかまったく不明な行政トップがいたから驚いた。大阪府の松井一郎府知事である。

  府議会関係者の話によると、大阪に台風が襲った4日午後から松井知事の動きがまったく見えず、知事が指揮を執る災害対策本部も立ち上がらなかったという。また、いつもは饒舌なツイッターも、なぜか台風の間は沈黙。台風が過ぎ去った後の最初のツイートは、共産党批判と平松邦夫前大阪市長への罵倒という有り様だ。一部の自治体では、停電や断水に関する情報を市長がツイッターでこまめに伝えているのに、大阪府のトップが緊急時に何一つ情報を伝えないのは異常だろう。

  だが、驚くのはこれだけではない。7日午後15時47分に流れた産経新聞ネット版には、松井知事が大阪府内ではなく、なんと沖縄県那覇市にいることを報じていた。記事では、自民党の総裁選に触れた松井知事が「『もう消化試合の状況になっている』と評した。那覇市で記者団に語った」と書かれていたのだ。

  7日午後9時現在、府内では停電が続く世帯がまだ5万6000軒以上もあり、関空の機能も完全には戻っておらず、じわじわと関西経済や私たちの生活にも影響が出始めている。大阪府では8日昼までは大雨による土砂災害への警報も出ているのだ。それなのに大阪府の最高責任者が大阪を留守にし、沖縄に飛んでいるとすれば、これは知事として職務放棄にも等しい行為ではないのか。 

  なぜ那覇なのか。わが目を疑った私は、念のため取材先の国会議員や府議、また府政記者に確認を取ったが、誰も「知らない」「沖縄? まさか」と口をそろえ、中には絶句した議員までいた。私も当初、産経の記事は誤報ではないのかとさえ思ったほどである。だが、事実だった。松井知事は7日の午後、那覇市にいたのである。

  9月30日投開票の沖縄県知事選挙に立候補する予定の佐喜真淳氏(54)陣営の関係者に確認したところ、松井知事は佐喜真氏の事務所「沖縄県の未来をひらく県民の会」を訪れ、午後2時から日本維新の会の推薦状を手渡していたのだ。

  松井知事は大阪府知事と日本維新の会代表の2つの顔を持つ。理屈の上では、府知事の公務が終われば維新の代表としての政務に励むのは自由である。この日も維新の代表として那覇市に行ったのだろう。

  しかし、だ。府内には台風被害の爪あとがまだまだ残っているこの時期に、いくらなんでも大阪府知事より維新代表の仕事を優先していいわけがない。維新の府議、市議だって住民のために奔走している。推薦状を手渡すなら馬場伸幸幹事長が代行できたはずだ。政治家として目を向けなければならないのは沖縄知事選ではなく、今は府民の安全と生活を守ることだろう。松井知事はいったい、どこを見て仕事をしているのだろうか。

  また松井知事は6日、関空の機能がマヒしたことで、大阪国際空港(伊丹空港)と神戸空港を関空の受け入れ先にしたいと政府に要望した。だが、過去の言動を振り返ればこれは奇妙でしかない。

  そもそも橋下徹前府知事は2008年、伊丹空港の廃止を訴え、2010年4月に大阪維新の会が立ち上がってからも同会は伊丹空港廃止をぶち上げていた。その後、民主党政権の下で伊丹と関空は経営統合されたが、その原因は維新が伊丹廃止を訴えたからだけではない。むしろ政府や官僚らの思惑が大きく働いたからで、維新の本音はあくまでも伊丹の廃止だったはずだ。それが困ったときだけ伊丹空港に頼るというのは、ご都合主義もはなはだしい。

  9日からは大阪を離れ、万博誘致活動のため欧州を訪れる松井知事。大阪府民の安全よりも選挙とイベントにしか関心のない人物が、果たして大阪府のトップにふさわしいのかどうか。府民もいい加減、このデタラメぶりに気がつかないと、いずれ大阪は関空のように機能不全に陥ってしまうだろう。
 
 

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2018年9月 6日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

法律や数字では解説しそうもない
‐中央省庁の障害者雇用水増し問題‐

  この件に関しては、どうしてもこの人の考えが聞きたくて一夜、グラスを重ねた。5歳のとき両目の光を失って全盲に。いまは都心のIT関係の会社に勤め、月に一度は私としたたか飲んで、吉祥寺まで白杖を頼りにスタスタ帰る、本人いわく、百戦錬磨の障害者、服部新兵さん(46)だ。

  いうまでもなく「この件」とは、法で義務づけられた障害者の雇用を実に27の中央省庁が水増し、6900人のうち半数が障害者ではなかったという一件だ。

  服部さんは、雇う方も雇われる方も、まず最初にこの障害者だったらどんな仕事ができるのか、そこにばかり目が行ってしまう、それが大間違いだという。

  「ぼくたちですと、まず鍼灸師の資格を取らせる。でも朝、目が覚めたら鍼灸院にいるなんてことはないんです。自分で身支度をしてつえを頼りに電車に乗って、鍼灸院に行って、はじめて働いたことになるのです」

  車いすの人は1人で満員電車に乗り込み、知的障害の方は乗り継ぎもしっかり覚え、精神障害者はギュウヅメの車内でもパニックを起こさない。そうやって職場を往復してこそ、雇い、雇われたことなる。
 
  「障害者はドローンに乗っかって職場にやってくるわけではないのです」

  この問題、どうやら法律や数字では解決しそうもない。原点に返って考え直す必要がありそうだ。

  折しも服部さんと飲んだ夜、東京は雷鳴とどろく強烈な雨。落雷で吉祥寺まで帰る井の頭線はストップしてしまった。だけど、こんなときJR中央線なら動いていると考える障害者や雇用主は大間違いだという。

  「慣れない路線の、しかも何時間も待たされて殺気だった乗客の渦に巻き込まれる。そういう状況こそ、障害者にとっては何よりも危険。ぼくだってパニックになるかもしれませんし、雇用主は絶対にやらせてはならないことなんです」

  そういうこともわかり合えないまま、政府は各省庁に再発防止を厳命したという。この先、障害者はどんな働き方になるのだろうか。

  深夜、服部さんから「井の頭線の復旧を待って、いま自宅に帰り着きました。ご安心を」というメールが入った。

  服部さんがドローンに乗って吉祥寺に帰り着いたわけではないことは確かだ

(2018年9月4日掲載) 

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