日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏
許しがたい 権力かざし選手抑え込む組織
‐ボクシング連盟 告発状に思う‐
ボクシングの取材というと、はるか四半世紀も前のことになる。1992年夏、宮崎県で行われたインターハイ(高校総体)。東京朝鮮高級学校が東京都大会で優勝していたのに、出場したのは2位になった別の私立校だった。当時の高体連は朝鮮初中高級学校を学校と認めていなかったのだ。
だけど、このときの朝鮮学校の生徒、先生は悔しいけどメソメソしていなかった。よし、だったら夏合宿をかねて宮崎に行って都の代表校を応援しよう。そうしたら、ぼくらの全国でのレベルもわかるはずだ。
宮崎では自分たちが負かした選手を応援し、勝てば一緒に肩を組んだ。そんな彼らとともにすごした楽しい取材。高体連がインターハイの全種目に朝鮮学校の出場を認めたのはその数年後だった。
この取材で監督やコーチから何度も聞かされた言葉は、ボクシングほどメンタルが大事な競技はない。リングに上がれば、たったひとり。闘うのは相手ではなく自分自身。だからみんなストイックに自分を見つめ、まわりのことは目に入らない。アマ、プロ問わず、それがボクサーだという。
だけど、それをいいことにまわりの人間が彼らの純粋さを利用し始めたらどうなるのか。およそスポーツの指導者とは言い難い振る舞いでまわりの者をかしづかせ、独特の集金マシンでカネを吸い上げる。それとてとんでもない話だが、許し難いのは、その日のためにトレーニングを積んできた選手に到底、承服しがたい判定を下し、異議を唱えればどう喝、威迫をもって泣き寝入りさせる。
このところ私たちの報道番組も情報番組も、333人の有志から告発状が出された日本ボクシング連盟の山根明会長一色である。12項目もある告発の内容は、どれもこれもとんでもないものだ。だけど告発状の宛先である文科省、スボーツ庁、内閣府、IOCなど8団体にも上る省庁、組織はこれまで何をしていたのか。
それにしても権力にふんぞり返り、まわりの者をかしづかせ、だれが見てもおかしなことでも黒を白と言い倒す。そんな姿は、この国では果たしてボクシング連盟だけのものだろうか。
代表の座を持っていかれた相手選手を声をからして応援していた若者たちの瞳が、まぶしく思い出される猛暑の夏である。
(2018年8月7日掲載)
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