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2018年7月13日 (金)

Webコラム 吉富有治

未曾有の被害を生んだ平成の大豪雨
マスコミの目が届かない被災地区を取材した (上) 

  西日本を中心に大きな被害が出た7月の大豪雨。警察庁の発表では12日現在、全国14府県で200人の命が奪われ、避難者数7085人、断水23万5000戸、家屋の被害は2万4150棟にも上った。そのうち愛媛県では県内で死者26名、行方不明者2名、大洲市と西予市、宇和島市、上島町の4市町の一部では計2万2415世帯が現在も断水が続いている。
 
  私は10日、その愛媛県の西予市明浜町を目指してクルマを走らせていた。明浜町宮野浦は私が生まれた故郷だ。今もこの一帯の集落には親類縁者が住んでおり、親類や独居老人のために食料品や日用品の支援物資を運びつつ、同時に災害取材をおこなうためだった。
 
  さて、四国の大動脈である高松自動車道から松山自動車道へとクルマを走らせていると、ふと気がついたことがあった。愛媛県や高知県など四国の各地に大雨が等しく降ったというのに、高速道路から見る風景は普段とまったく変わらないのだ。被害が大きかったはずの大洲市や西予市に近づいても、いつものように山々は初夏の濃い緑で覆われ、広がる田畑には稲がすくすくと育っている。ブルーシートで山肌を隠す場所もなければ、テレビや新聞で見るような被害は高速道路からはどこにも見当たらない。
 
  ところが、高速道路を降りて一般道に入り、山間部の峠道を走って親戚宅のある明浜町へ入るころには様相が一変する。ところどころに災害の傷跡が見えてくる。薄暗くて狭い道路の脇には倒れた大木や転げ落ちた岩が迫っている。山肌からは水が大量に湧き出す場所にも出くわした。どうやら災害はピンポイントで襲っている。大地震のように被害が等しく広がっているのではなく、今回の豪雨は一部の地域のみ被害が大きく、被害を受けなかった地区との差が激しすぎる印象を受けた。
 
  大規模な洪水に見舞われた野村の場合は原因が明確だ。水没した一帯の近くには肱川があり、タイミングを誤ったダムの放流が水害を招いたといわれている。だが、吉田町や明浜町の被害はなぜ起きたのか。川が氾濫したわけではない。山が崩れて泥と鉄砲水が流れ落ちてきたからだが、それなら他の場所だって山が崩れていいはず。だが、実際はそうなっていない。この点は今後、十分な検証が必要だろう。
 
  故郷の宮野浦は幸い、死者こそ出なかったが大規模な山の崩落が2か所あった。家が2軒つぶされ、駐車場に停めていたクルマ4台が土砂や瓦礫の下敷きになった。これほどの土砂崩れだから、さぞかし大きな音がしたのだろうと思っていたら、付近の人は轟音に気がつかなかったという。土砂崩れの場所から50メートルも離れていない場所に住む82歳の老人は「土砂崩れの音はまったく聞こえなかった」と証言し、ほかにも数人が同様の証言をした。つまり、大雨の音が土砂崩れの響きすら打ち消してしまったようなのだ。

 
  いったいどのような豪雨だったのだろうか。みかん農家を営む40代の男性は、「バケツがひっくり返ったという表現があるが、それでも物足りないくらいだった。7日夜、仕事で出かける必要がありクルマに乗ったが、ワイパーを最大にしても前が見えなかった。風が吹き、かなり大粒で激しい勢いの雨が長時間にわたって降っていた。そのうち山から流れる近くの小さな川があふれ出し、泥水が20世帯以上を襲って床上浸水の被害が出た」と話し、先の82歳の老人も「これまで生きてきて、こんな大雨の経験はない」とその恐怖を語っていた。

 被害は家屋の倒壊や床上浸水だけではない。無事だった家庭でも、しばらくは生活していくことが難しくなっている。

  高齢者が多いこの地区では、宇和島市内へ向かう複数のルートが通行止めのため、今も生活の足である路線バスがストップしている。寸断されていた一部の高速道路や一般道は通行可能となり、物流は回復して町のスーパーには日用品や食料品は戻りつつある。だが、高齢者にとって事情は違うようだ。70代後半の女性が言う。

  「路線バスが止まっているので、買い物に行けない。スーパーに食料品はあっても買い物に行く手段がない。バスは年寄りにとって唯一の交通手段。いまは冷蔵庫や倉庫に置いてある食料品を食べて暮らしている。早くバスが動いてくれないとクルマを持たない年寄りが困るだろう」

  また、「幸い、ここは断水こそしていないが、蛇口からは白く濁った水が出る。洗濯や風呂はいいが、飲水にするためには一度沸かさないと飲めない」という声も耳にした。私も確認したが、確かに水道水はわずかに濁っていた。

  豪雨の災害から約1週間。復興への道のりはまだまだ遠い。(つづく)

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