« 日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏 | トップページ | 日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏 »

2018年7月24日 (火)

Webコラム 吉富有治

生活保護制度は市の財政を圧迫する? 
実態を隠す吉村大阪市長に異議あり

  おもに関東地域や首都圏を取材エリアとする東京新聞が、大阪市の吉村洋文市長を批判的に取り上げていると聞いた。さっそく東京新聞の友人に連絡を取り、本紙を取り寄せて読んでみた。なるほど、これは問題だ。

  吉村市長を取り上げのは7月17日付けの東京新聞。同紙で定評のある企画記事「こちら特報部」に載っていた。生活保護法の一部改正案を審議中の衆院厚生労働委員会は今年4月24日、吉村市長を参考人として招致。市長が委員会で説明した生活保護費と市財政の関係が実態を正確に語ったとは言い難く、生活保護制度はひどいという印象だけが独り歩きすると「特報部」は批判した。

  この委員会で吉村市長は、「大阪市は全国の中でも生活保護世帯が圧倒的に多い」と述べ、「受給世帯は11万5000世帯で全国最多。受給率は全国平均が1.67%に対して大阪市は5.2%。歳出額は2823億円と一般会計の15%を占めている」「生活保護費は右肩上がりの状態だったが、橋下市長の時代から不正受給者対策に取り組み、ここ6年間で右肩上がりだった受給世帯の増加は減少傾向にある」と語った。

  大阪市が生活保護世帯のために2823億円(2018年度当初予算)を拠出したのは事実であり、受給世帯率が全国トップなのはその通り。けれど生活保護は本来、国の制度であり、地方交付税分を含めると国が4分の3以上を負担する。大阪市の持ち出しは2823億円の約2%、実際は60億円ほどだ。いくら全国で最多の生活保護世を抱えていても、生活保護費が大阪市の財政を圧迫しているかのような説明は誤解を呼ぶ。いや、むしろ悪意さえ感じる。この点について大阪市の某部局幹部は私の取材に対して、「生活保護世帯減らしを正当化するため、わざと数字を大きく見せたのだろう」と語っていた。

  市幹部の言葉を裏づけるものがある。「橋下市長の時代から不正受給者対策に取り組み、ここ6年間で右肩上がりだった受給世帯の増加は減少傾向」の部分だ。もちろん不正受給者を減らすことは大切だが、減らすことを重視するあまり、大阪市では本当に生活に困っている人が不合理な仕打ちを受けている事実があるのだ。

  大阪市では現在、生活に困窮して区役所に生活保護を申し込んでも追い返される事例は少なくないという。共産党大阪市議団の山中智子幹事長は、「大阪市による生活保護の締め付けは、総論として違法レベルという認識だ」と憤る。「全大阪生活と健康を守る会連合会」(大阪市西区)の大口耕吉郎会長は、「維新市政に変わってから特にひどくなった」と指摘し、具体的な事例として、仮に親族がいても法的には受給を認める必要があるのに、受給決定前に「親族がいるならそこに頼れ」などと、正当な権利がありながら門前払いされるケースが後を絶たないと市の姿勢を批判した。こんな調子で「生活保護世帯は減少傾向にある」と胸を張ったところで、実態は本当に困っている人から生活権を奪っているにすぎないのではないか。

  ウソは言わないが、一部の事実だけを語って真相は決して語らない。これが吉村市長の政治ポリシーなら大阪市民はたまったもんじゃない。吉村市長はまた、7月17日のツイッターでも次のように書き込み、弁護士など専門家から批判を浴びていた。
 
  >ちょっと待て。第二東京弁護士会、やりすぎだ。このアンケートは違法認定されたが、それ以外に野村弁護士が大阪市行政の適正化に果たしてくれた役割は大きい。日弁連、裁判所、現職の大阪市長である俺が公開の場で証言するから呼んでくれ。

  情報番組のコメンテーターでもある野村修也弁護士は橋下徹前市長時代の2012年1月、大阪市の特別顧問に就任し、全職員を対象に組合活動に関するアンケート調査を実施した。ところが、設問の一部に憲法が保障する団結権やプライバシー権を侵害する質問項目が含まれていたとして、大阪府労働委員会のほか中央労働委員会が2014年8月、市の不当労働行為(支配介入)と判断。また、大阪地裁に続いて二審の大阪高裁も2015年12月、22の設問のうち5問が憲法違反だとの判決を出し、大阪市に対して約80万円を原告に賠償するよう命じた。第二東京弁護士会は7月17日、同様の理由で野村弁護士を業務停止1ヶ月の懲戒処分とした。

  吉村市長の先の書き込みは、この処分に対して異議を唱えたものだが、中身は詭弁に満ちている。

  そもそも野村弁護士が第二東京弁護士会から懲戒処分を受けたのは、アンケート調査の一部内容が違憲と認定され、こんなアンケートを市職員に強制すること自体、人権を守る弁護士の使命に反するからである。仮に野村弁護士が大阪市に何らかの貢献をしたとしても、だからといって懲戒処分まで免罪されるわけではない。貢献もあったのだから違法行為を却下しろという言い分など筋が通らない。功は功、罪は罪という峻別すらできないようでは、法とルールに従って行政を運営する自治体トップとしては失格だろう。

  話を大げさに誇張し、市民を煙に巻く。身内には甘く、そうでないものには厳しく臨む。このような市長が「大阪に万博を」「大阪にカジノを」と叫んでいる。万博やカジノの経済効果が「ウン千億円!」と宣伝したところで、いずれも誇張だらけ。何の根拠もない。儲かるのはカジノ業者や土建屋で、ギャンブル依存症や借金問題など、いずれ国民がツケを払うことになるだろう。吉村市政の本質を、大阪市民もそろそろ気がついたほうがいい。

|

« 日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏 | トップページ | 日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏 »

Webコラム」カテゴリの記事