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2018年7月 5日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

引き継がれる沖縄の戦後
‐悲劇知らない世代が伝えていく バトンの色を変え‐

  前回、大阪の地震にふれたので少し書くのが遅れてしまったが、沖縄は6月23日、先の大戦の組織的戦闘が終わったとされる慰霊の日を迎えた。今年も東海テレビの番組で、その少し前、那覇、糸満を訪ねてきた。

  今回の取材は沖縄戦の末期、地下壕の陸軍病院で負傷兵の看護に当たり、女生徒222人のうち123人が犠牲になった「ひめゆり学徒看護隊」。その悲惨さを後世に伝える「ひめゆり平和祈念資料館」の館長に、島袋淑子さん(90)に代わって、壕の悲劇を知らない戦後世代の男性、普天間朝佳さん(58)さんが就任したと聞いたのだ。

  それに修学旅行生たちに体験を伝える証言者も、いまでは島袋さんを含めてわずか7人。館ではこの方たちの体験を引き継いでいく説明員を養成、37歳の尾鍋拓美さんをはじめ3人の女性が学徒の遺影の前に立つ。

  風化するひめゆり、そして沖縄の悲劇…。

  だが、お会いしたみなさんの思いは違った。島袋さんは、この祈念館が国内の他の平和施設と違うのは、ひめゆりの生存者が自らお金を出し合い、寄付を募って開館したことだという。「だから館の全員に、早くからこの体験をだれかに伝えておかなければ、という思いが強かったのです」。

  その島袋さんから館長を引き継いだ普天間さんは、どうしても生存者のみなさんは、そのあと結婚する、お子さんが、孫ができる。そのたびに、亡くなったクラスメートに申し訳ない、という思いが強かったという。それが証言者から説明員に。「1歩踏み出して、この方たちが歩んできた女性としての戦後を客観的に伝えることもできるのでは、と思っているのです」。

  37歳、説明員の尾鍋さんは、これまで証言者は、ご自分の体験を話すだけだった。だけど説明員は6人、7人の生存者の思いをわが身に取り込むことができる。逃げまどい、友を失った現場には、米軍基地のフェンスが張りめぐらされている。「館で声高に叫ぶことはなくても、みなさんの、戦争は絶対にダメ、戦争は嫌いという思いは痛いほど伝わってきます」。そして「それは私たちの世代でも伝えられることだと思うのです」。

  戦争の終わっていない沖縄の戦後は、バトンの色を少し変えて、しっかり次世代へと引き継がれていく。 

(2018年7月3日掲載)

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