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2018年7月12日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

極刑臨んだリンちゃん父の悔し涙
無期懲役の判決
‐オウムの7人死刑執行と同じ日‐

  大変な豪雨禍に見舞われた先週金曜日。そこにオウム真理教事件の首謀者、松本智津夫死刑囚(63)の死刑執行の一報が飛び込んできた。続いて幹部6人、計7人の執行が明らかになった。取材に多くの時間を費やし、テレビなど 随分、討論してきた事件だが、私自身、大した感慨はなかった。

  公判途中で精神疾患に陥ったとされる松本死刑囚が今後、真相を口にする可能性があるなら、それを待つべきという考えもあった。といって、事件から23年、国民の8割以上が死刑制度を支持する国として、これ以上の猶予は許されることではないという思いもある。

  地下鉄サリンなど13事件、死者29人、負傷者6500人。平成で最も凶悪とされる事件は、実行犯の教団幹部13人の命をもって償う道以外ない。ただその同じ日、国際社会の厳しい批判の中、こうして死刑を執行する国に対して、いささか考え込まされることもあった。

  ベトナム国籍の小学3年レェ・ティ・ニャット・リンさん(当時9)に性的暴行を加えて殺害した同じ小学校の元保護者会会長、渋谷恭正被告(47)に千葉地裁の裁判員裁判は、遺族が願っていた死刑ではなく、無期懲役の判決を言い渡したのだ。

  手錠まで用意した被告に、口では言い表せない卑劣なわいせつ行為をされたリンさんだったが、父親のハオさんは「A子でもB子でもない、リンはリン」とあえて実名も映像も公開して極刑を願ってきた。

  一方で渋谷被告は「すべて間違っている」と全面否定。そのうえで「通学路で子どもが行方不明になるのは親の責任だ」とまで言い放ったのだ。

  だけど被害者が1人であるうえ、「計画性がなく、死刑がやむを得ないとは認められない」として、地裁は被告を無期懲役としたのだ。「悔しい」と涙を流す父親。この判決は、5月新潟で、やはり小学生の女の子を性的暴行目的で殺害、列車にひかせた事件の裁判にも影響してくるはずだ。

  あえて聞きたい。この被告に「生涯を全うさせる」と認める理由はなんなのか。

  ニャット・リンさんの「ニャット」はベトナム語の「日本」の意味。大好きだった日本。だけどこんな被告に死刑を言い渡すことのない、ニャットの国の死刑制度をリンさんはどんな思いで見ているのだろうか。

(2018年7月10日掲載)

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