日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏
歌津の海の兄弟みこしは復興の足音
‐南三陸町 11年ぶり船渡御‐
おはやしが流れるなか、大漁旗をなびかせて歌津の海を進む2隻の船。それぞれの船におみこしが鎮座している。兄弟船ならぬ、兄弟みこしだ。
大型連休の後半は東日本大震災の被災地、宮城県南三陸町ですごした。全国的にメイストームとなった4日。だけどまさに神通力、おみこしの船渡御の間、海は五月の陽光に輝いていた。
先の船のおみこしは震災の翌年2012年3月、静岡県裾野市の三嶋神社から歌津の三嶋神社にお輿入れしたお兄さん。後ろの船のおみこしはこの日、裾野の三嶋神社からやってきた弟分。6年ぶりの兄弟顔合わせとなったのだ。
津波で壊滅的打撃を受けた南三陸。歌津の三嶋神社のみこしや笛太鼓もみんな流されて、春秋の例祭もできない事態。そのことを救援物資を届けにきて漁師の千葉正海さんから聞いた裾野三嶋神社の氏子の男性が「同じ名前の神社の氏子同士、よし、うちのおみこしを一基、寄贈しましょう」となったのだ。
こんな太っ腹な話を千葉さんから聞いた私は震災翌年の3月、裾野のおみこしお輿入れの模様をテレビで全国に流させてもらった。このとき、歌津の氏子が裾野のみなさんと交わした約束は「復興のめどがついたら、船渡御の大祭をやります。そのときは、ぜひ弟分のおみこしも一緒に」。
じつに11年ぶりの船渡御。神主さんが清めの海水をみこしにかける神事。「富士山のふもとしか知らないみこしが三陸の海の水を浴びるとはなあ」。裾野の氏子の笑顔が船上に並ぶ。陸では子どもみこしも復活した。300年続く歌津のみこしは、白装束の担ぎ手が和紙を口に挟んで一切声を出さない独特の習俗。対する裾野のみこしは、ワッショイの掛け声とともに、みこしを宙に舞い上げる勇壮さ。
復興がなったといっても、歯止めのきかない人口減。猛スピードで進む高齡化。もちろん道半ばだ。だけど伊里前地区では、ご先祖が残してくれた里山を切り開いて、高台に住宅もできた。練り歩くみこしに涙ぐんでいた女性は、「津波で家族が2人減りましたが、孫が3人できて7年前より1人増えました」と、まぶたを拭って笑顔に戻る。
人々が前を向いて歩く、たしかな足音が聞こえてくるようだった。
(2018年5月8日掲載)
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