日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏
スポーツに「法律」が入る日がくるかも
‐日大アメフト部の悪質タックル問題‐
日大アメフト部の悪質タックル問題。事件記者生活が長かったこともあって、事件になる可能性についてコメントを求められることが多い。
結論から先に言うと、私は内田正人前監督や井上奨前コーチに厳しい刑事処分が科されるべきだと考えているし、いまの流れはそうなりつつある。その根拠は─。
当初、警視庁はこの問題の立件に慎重だった。だがその流れを一気に変えたのが、加害者の日大アメフト部員とその翌日夜の日大前監督、コーチ、ふたつの記者会見だった。言うまでもなくスポーツのプレーで起きるけがは「正当な業務は罰しない」とした刑法35条に当たり、警視庁もそこを重視していた。だが日大アメフト部員は会見で自分の弱さを認めたうえで、井上コーチから「相手のQBがけがをして秋の試合に出られなくなったら、こっちの得だろ」と言われたことを素直に告白した。
そうなるとこれはプレー中の正当な行為とは180度違う。スポーツの中で起きたことではなく、スポーツの中に6カ月先を見据えた計画的傷害事件を潜り込ませたのだ。当然、捜査当局はこの告白に対する前監督、コーチの言動を注視した。
ところが翌日夜、急きょ記者を集めた会見で前監督は「指示はしていない」。コーチも「つぶしてこいとは言ったが、それは闘志を出してやれという思いだった」「QBをつぶせは、けがをさせることが目的ではない」と、ともに全面否認。そのうえで、あらかじめ用意していたと思われる日大病院の病棟に直行してしまった。
こうなると、かかっている嫌疑を全面否定したうえに口裏合わせ、真実を証言しようとする人に対する威迫、証拠隠滅。さらには過去の政界事件のように入院を理由に任意捜査に応じない事態も十分に考えられる。
こうした緊迫した事態に私たち報道関係の間では、警視庁はそう時をおくことなく、一気に動くのではないかという観測が飛び交っている。ルールとマナーのみによって支えられてきたスポーツに、ついに「法律」が入る日がやってくるかもしれない。もちろん裁判所の判断を仰ぐのもよし。
だが、グランウンドで、ピッチで、リングで起きるすべてを愛する私たちとって、これが「最後の事件」であることを願うばかりだ。
(2018年5月29日掲載)
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