日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏
読者が待ってくれている新聞
‐別れと出会いの季節に思う言葉‐
春。3月が卒業や退社、散る桜とともに別れの月なら、4月は入学や入社に人事異動。新たな出会いの月でもある。私がかかわっているテレビ局も改編の季節。MCと呼ばれる司会進行役に若手が登場したり、逆にベテランが再登板したり。そのスタジオの隅では入社式を終えたばかりの新人が緊張した面持ちで見学しているのも、この時期の光景だ。
そんな新旧のスタッフに私たち出演者が「ひと言ごあいさつを」と促されるのも恒例の風景。ただ私は、今年は「スタッフの明るい雰囲気こそ高視聴率につながる」というお決まりのスピーチのあとに、少し言葉を加えさせてもらっている。
街角や駅のホームで「見てますよ」「がんばって」と、ありがたい声をかけていただくことは少なくない。ただ、ここ1、2年、かけてくれる言葉が様変わりしたように思う。「もっとガツンと言ってくださいよ」「私たちに代わって、はっきり言ってやってよ」…。
共謀罪に始まって森友・加計疑惑。その森友問題で財務省の公文書改ざんが発覚してから、かけてくれる言葉が一層、激しさを増しているように感じられる。
そうしたことを、なじみのスタッフや新しい仲間に話したあと、「私たちは、そんな視聴者の思いに応えているのだろうか」と前置きして、私が大阪読売に入社した春、当時のK編集局長が、私たちに新米記者に語ってくれた言葉を披露させてもらっている。
〈近隣の人々を愛し、家族を愛し、額に汗して日々一生懸命に働いている。そんな人たちが、首を長くして待ってくれている。そういう新聞をつくりなさい〉
あとになって、それはそれは厳しい編集局長だと知るのだが、このときは、わが子をさとすように、こう話されたのだった。
私が披露させてもらったかつての編集局長の言葉を、局のベテランも新人クンも、目を輝かせて聞いてくれているような気がする。
逃げの一手の証人喚問、国民を小バカにし続ける総理答弁、野卑極まりない財務相。そんななか、私たちは、日々額に汗して働いている読者、視聴者が待ってくれている記事を、番組を届けているのだろうか。
急ぎ足で桜が散って、早くも芽吹きはじめた新しい緑に、あらためてあのころの言葉を思い起すのである。
(2018年4月3日掲載)
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