2019年12月 5日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

小中学校で「安全」の授業を
-家庭教育では子どもを守りきれない-

 「知らない人に付いていかないように言っていたんですが」。12歳の女の子のお母さんの言葉が虚しく聞こえた。もはやそういう次元の問題ではない。先週は子どもたちの安全について、さまざま考えさせられた。

 行方不明になっていた大阪市住吉区の小学6年生の少女が430㌔離れた栃木県小山市で保護され、少女とツイッターのDM(ダイレクトメッセージ)で連絡を取り合い、自宅に連れ込んだ35歳の男が逮捕された。男の家にいた6月から家出中の茨城県の15歳の女子中学生も同時に保護された。

 この事件のあと、埼玉ではツイッターで知り合った兵庫の女子中学生を誘いだして借家に住まわせていた37歳の男が逮捕された。この男は別の女子中学生も家に連れ込んでいたとして、すでに起訴されている。

 テレビ番組で議論しながら、私は、もはや「安全な日常生活」を小中学校で教科の授業にするしかないという思いをふくらませていた。スマホを大多数の児童生徒が持っているなか、SNSによる被害は一昨年、小学生で倍増している。だけど有害サイトを遮断するフィルタリングをさせている親は38%にすぎない。

 はっきり言って、子どもに迫りくる危険について親が対応不能に陥っているのだ。その危険とは何か。主に3つある。今度の事件のようなスマホのSNSを使った誘い出しや連れ歩き。2つ目が児童ポルノの撮影や少女買春といった未成年者を対象にした性犯罪。そして3つ目が芸能人逮捕が相次いでいる大麻やMDMAといったクスリだ。

 スマホに児童ポルノ、それにクスリ。どれもこれも親の時代に身近にあったものではない。自分自身や友だちがそのことで危険な目に遭ったことは、まずない。経験則のない怖さは、親から子へ伝えていくことができない。ということは、もはや家庭教育では子どもを危険から守りきれないのだ。

 かつて大リーグを取材したとき、選手のオフの日のボランティアというと、学校に出かけ、先生や親と一緒になって子どもたちにドラッグに手を出さないことを約束させる授業だった。

 ひるがえってわが日本。小中学校に「特別の教科 道徳」が採用されたように、保護者も交えた「特別の教科 安全」を始めるときが来ているように思うのだ。

(2019年12月3日掲載)

 

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2019年11月28日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

「散りぬべき時知りてこそ世の中の…」
-「桜を見る会」騒動-

 相変わらず、週の初めは東京のホテル暮らし。ただここ数日、ちょっとした異変が起きている。いつもは笑顔を絶やさないスタッフの女性がどこかよそよそしい。聞いてみると、原因はあの首相主催の「桜を見る会」。こんなところにも暗い影が、とびっくりした。

 会に先立って山口県の安倍晋三後援会の会員たち850人が超安値の会費で開いていた前夜祭。その会場となったやはり都心のホテルに取材が殺到していることは聞いていた。ところが私の定宿のこのホテルも、3年前までは前夜祭の会場。このため問題発覚以来、総支配人たちは「記者らしい人が接触してきたら、即刻、広報に連絡のこと」とピリピリしているという。

 「お互い、因果な仕事だね」と笑い合ったが、ここに来て、花に似合わぬ無粋な騒ぎなんて言っていられなくなった。最初は「招待客に関与してない」と大見えを切った首相が、じつは1000人枠で地元の人たちを招待。さらに昭恵夫人にもお友だち枠。自民党関係者の招待は6000人に上ることが明らかになった。

 どう言い逃れしようと、公金を使った公選法違反の供応の罪。お線香やウチワ配りで失脚した議員がいるのに高級ホテルの超安値パーティーに升酒、お料理つきの花見招待。これが選挙違反に問われないなんて到底、許されることではない。

 ただし首相の胸のなかには税金を使ったことはともかく、みんなに喜んでもらってどこが悪いという思いがあるに違いない。だけど今回、この花見問題が一向に収束しない原因は、とんでもないこの勘違いにある。

 首相を援護するように下関市長が「おじいちゃん、おばあちゃんが、ネクタイ締めて着物を着て、地方の人に喜んでもらってどこが悪い」と発言。これを東京の新聞、テレビが報じたところ地元から首相擁護の電話やメールが来るかと思いきや、さすが長州・山口。「花見のせいで全国の人に山口県人がおねだり、おもらい好きと思われたら、先祖に顔向けできない」という声が随分届いたという。

 折しもこの騒ぎの最中、憲政史上最長宰相を記録した安倍首相。だけどこのところなぜか細川ガラシャの辞世の句、「散りぬべき時知りてこそ世の中の 花も花なれ人も人なれ」ばかりが浮かんでくるのです。

(2019年11月26日掲載)
  

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2019年11月21日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

「首里城復元は沖縄の人々の心の復元でもあった…」
-東海テレビの取材DVD-

 あらためてどれほどつらくなるか、そんなことを考えてなかなか見る気になれなかったDVDを、火災から10日余りたって、やっとディスクにかけることができた。

 10月31日未明、正殿、南殿をはじめ主な建物が全焼した世界遺産の首里城。それまでの沖縄の取材というと、大半がかつての大戦で地上戦となった沖縄戦だったり、あるいは米軍基地。私は2年前、1度そこから離れて、ほぼ復元が実現した首里城を取り上げてみたいと思った。

 その東海テレビの取材は、いま思えばまことに得難いものだった。復元に力を注がれた高良倉吉琉球大学名誉教授の解説をいただきながら正殿正面、琉球王朝の玉座、御差床(うさすか)の美しさに息をのみ、漆塗りの柱の精巧な彫刻に目を奪われた。そのときのDVDの映像に高良さんの声がかぶる。

 「失われた命は帰って来ない。でも文化遺産は努力で取り戻せる。首里城の復元は、そんな思いの沖縄の人々の心の復元でもあったのです」「あの戦争も、その後の苦難も、沖縄の人々は生来のこうした柔らかい心で乗り越えてきたのです」

 全国の人々が胸張り裂ける思いで見た首里城の崩落。その後、復元を願う寄付は予想外の速さで集まっているという。だが大きな障害も立ちはだかっている。資材と人材だ。復元の際、正殿だけでも直径1㍍級の台湾ヒノキ100本が必要だったが、いまは入手困難になっている。そして22万枚もの沖縄赤瓦、それに沖縄漆。いずれも調達が難しい。それより何より、瓦も漆も扱える職人が激減している。

 そんな折、三重テレビの仕事で2年前の台風被害で休館していた伊勢神宮式年遷宮の資料を展示した「せんぐう館」が再オープンしたというニュースにふれた。1000年もの間、20年ごとに神宮をすべて建て替えてきた遷宮。だが、そのために100年先を見据えたヒノキの宮域林があり、20年に1度のこととなれば、職人の技は確実に継承される。まさに先人の知恵ではないか。もちろん火災はあってはならない。だが台風もあれば、地震もある。こうした知恵に学ぶことはないのか 。

 月末、再び首里を訪ね、焼け残った城の大龍柱の制作者、西村貞雄琉球大名誉教授にお目にかかる。ぜひ先生のご意見も聞いてみようと思っている。

(2019年11月19日掲載)

 

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2019年11月14日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

浪速のお笑いは権力への風刺があったのでは…吉本さん
-ミキのツイート100万円-

 社会部の出身なので、コメントの依頼というと新聞、テレビ、雑誌とも、たいがい事件や事故、災害についてなのだが、なぜか最近増えているのが吉本の芸人さんと吉本興業。先週も写真週刊誌の「FRIDAY」が人気漫才コンビのミキと吉本興業について聞いてきた。

 京都市が市の施策を吉本所属のタレントにツイッターでPRしてもらおうと昨年、吉本興業と契約。1回につき50万円で地元出身の漫才コンビ、ミキが「大好きな京都の町並み!」などと2回にわたってツイート、100万円が支払われた。

 ただ、このつぶやきは京都市の広告であり、スポンサーが市であるとする記載がなかったため、いま社会問題になっている口コミを装った広告、「ステルスマーケティング(ステマ)」ではないかと批判が噴出。矛先は1回50万円のミキにも向かった。

 さて、私はFRIDAYに何をしゃべったか。まず第一に、ミキへの批判はお門違いもいいところだ。そもそも契約は京都市と吉本とのもので、ミキにステマかもしれないという感覚はなかったはずだ。それに1回50万円も、あくまで京都市と吉本の契約であって、ミキが言い出したわけがない。これで批判されたら、芸人はたまったもんじゃない。

 おかしいのは京都市であり、何より吉本だ。市は「マナー違反の観光客から罰金」とまで言いながら、こんなツイートで一体、どんな客を呼びたかったのか。

 そして吉本。ステマであるかどうかはともかく、こんな見え見えのおべんちゃらツイートの安請け合い。これがお笑いの町、大阪の笑いの殿堂のやることか。それだけではない。最近では経産省主管で日本の食文化やアニメを紹介するクールジャパンキャンペーンに、各地の観光大使。もちろん公的な仕事が全部悪いといっているわけではない。ただ「お奉行の名さえ覚えずとしのくれ」。浪速の笑いにはお上なんてクソ食らえ。常に権力に対する風刺と諧謔があったのではないか。

 と、まあ、ぼやいてみたところで漫才にもならない。ただこの春、参院選を前に安倍首相が「飛び入り」と称しつつ、ときの権力者として初めて吉本新喜劇の舞台に立った。あの場面で浪速の笑いも、吉本も終わったな。苦笑いしながら、つぶやくしかないのである。

(2019年11月12日掲載)

 

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2019年11月 7日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

いまさら記者の何を教育するのか
-記者の捏造にコメント…?-

 先週のこのコラムに菅原一秀経産相の辞任で週刊文春にやられっぱなしの新聞に「情けなくため息が出てくる新聞人」と書いたら、また文春のスクープで、今度は河井克行法相が吹っ飛んだ。そんな今年の新聞週間に、逃げ出したくなるようなコメントの依頼が朝日新聞富山総局からあった。

 コメントを求められた一件は、10月29日の朝日によると〈読売記者が談話捏造 富山版には「おわび」 懲戒処分へ〉とある。

 電話をしてきた朝日の若い記者は私が読売出身と知ったうえで、「他社の失態をあげつらう気はありません。同じ若い記者仲間として、なぜこんなことが起きてしまうのか、私たちも考えてみたいのです」と静かに語りかけてくる。
 
 聞けば読売の24歳の記者は富山版に掲載した「自治体 SNS発信工夫」の記事で、閲覧者を増やそうと苦悩する県や市の担当者の話として「派手な動画や写真に負けてなかなか見てもらえない」「SNS活用のノウハウがない」といった談話を取材なしで捏造したという。読売は富山版に「おわび」を掲載、「記者教育を徹底する」としている。

 電話をしてきた朝日の記者とはコメントを出すというより、いつの間にか、あれこれと語り合っていた。そもそも「記者教育を徹底」といったところで、いまさら何を教育するのか。捏造がいけないことを知らない記者がいるのか。

 行き着くところ私は「新聞の姿勢、新聞記者としての誇りではないのかなあ」と、なんだか自分自身に語りかけ、言い聞かせるような思いを話していた。

 あらためて文春を持ち出すまでもなく、政権中枢に狙いを定め、今週も来週も最高権力者側近の首を吹っ飛ばしていく。記者はそんな自らのメディアを限りなく誇らしく思うと同時に、政権は常に自分たちのメディアを狙っている。そこにある緊張感は大変なものだ。小さなコラムであっても談話の捏造なんてあり得ない。

 紙面、誌面から立ちのぼってくる誇りと緊張感。それこそが最大の記者教育ではないのか。ときの最高権力者から「この新聞を読んでくれ」と持ち上げられ、おだてられるような新聞から、果たして記者に誇りや緊張感が生まれるだろうか。

 さまざまなことを感じた2019年新聞週間だった。

(2019年11月5日掲載)

 

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2019年10月31日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

情けなく ため息出てくる新聞人たち
-文春にやられっぱなし「経産相報道」-

 「新聞を開いて僕は世界を知った」─これが10月15日から始まった新聞週間の今年の代表標語だ。だけど今回ほど新聞記者出身の身として、この言葉を空々しく感じたことはない。

 9月の安倍内閣改造で就任したばかりの菅原一秀経産大臣(57)が先週末、やっとのことで辞任した。だれが見たってその前日発売の週刊文春がトドメを刺したことは明らかだ。

 何しろカネでもモノでも配ること配ること。メロン24、カニ38、スジコ66…。傑作は「ローヤルゼリー、安倍(大)塩崎(恭久、元厚労相)(小)と記載されたリストは大臣の指示か」という野党の国会質問。菅原氏から「小でいいや」と言われた塩崎さん、当時知ってりゃ突っ返しただろうになあ。

 決定打は10月17日、菅原氏の秘書が選挙区内の元町内会長の通夜に香典を届けた場面を文春にきっちり写真を撮られ、公選法違反の動かぬ証拠。それにしても文春が10月10日発売号で疑惑を報じたそのさなかの香典。一体、菅原氏とはどんな感覚の持ち主なのか。

 それより何より、情けなくてため息が出てくるのが、この間の新聞ではないか。10日に文春に一報が出て、一部の新聞は「経産相に疑惑」と報じながら、先週号のトドメの文春記事まで一体、何をしていたのか。この間、10月15日には先の標語が発表された新聞大会が宮崎市で開催されていた。

 この大会は、イギリスなどと同様に新聞が「言論の自由を保障した社会に欠かせない公共財」として軽減税率の対象となった、いわば記念すべき大会だった。だけど、そこに集った新聞人たちは、この間の自らの報道を思い起こして恥ずかしくなかったのか。「開いて世界を知った」と書いた標語の中学2年生の男の子に顔向けできるのか。

 ここで記者OBとして愚痴っていても始まるまい。ならば、はっきりさせてほしい。一、いまの記者には香典の場面をつかむこともできないほど取材力がないのか。二、政治家の金銭疑惑、スキャンダルは文春新潮など週刊誌にまかせて、新聞は手を出さないのか。三、軽減税率にしてもらったうえ、すぐに圧力をかける安倍政権に逆らえるはずもないのか─。

 ぜひ各紙、検証記事で明らかにしてほしい。それでこそ、公共財ではないのか。

(2019年10月29日掲載)

 

 

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2019年10月24日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

暴力教師なぜ告訴、告発しない
-第三者委設置で司法踏み込みづらく-

 もう20年以上前の事件だが、神戸市須磨区で起きた連続児童殺傷事件。犯行に及んだ少年Aがいた中学の卒業生は、何年たっても「中学はどこ?」と聞かれるたびにドキッとしたという。同じ須磨区の東須磨小の子どもたちもこの先、何十年と同じ思いをするのかと思うと胸が痛む。

 40代の女ボス教師を中心にした暴力教師集団。20代の男女教師に、激辛カレーを食べさせる、車をボコボコにする、あざができるほど尻をたたく、性的行為を強要する。それがどういうことか、高学年の児童ならもうわかるはずだ。だけどいま、私の爆発しそうな怒りの矛先は事件に関わっている学校や市教委に向いている。

 先週行われた保護者説明会で学校側は「(加害教師たちは)自宅で療養させている」「暴行の現場になった家庭科室を改装する」「当面給食にカレーは出さない」…。一体、どんな神経を持っていたら、こんなことが言えるのか。

 理解に苦しむのは神戸市と市教委も同じだ。市はハラスメントなどに詳しい弁護士3人からなる第三者委員会を設置、年内に調査結果を出すとしている。委員の弁護士のこの先のご苦労はいかばかりかと思う半面、疑問も残る。記者会見した委員は「教師たちからヒアリングを進め、背景や風土も確認したい」としているが、果たして、すさまじい暴力や性的強要、これらはヒアリングして風土を確認するものなのか。

 そもそも神戸市と市教委はなぜ、暴力教師を神戸地検か兵庫県警に刑事告訴、告発しないのか。20代男性教師がすでに被害届を出しているとするなら、それは違う。「家のお金がなくなりました」が被害届。「家のお金を○○が盗んだ。罰して下さい」というのが告訴、告発。これほど違うのだ。

 暴力教師集団は傷害、暴行、脅迫、強要、強制わいせつ教唆、器物損壊、子どもたちの前で教壇に立つ先生がこれだけの犯罪にかかわっていたのだ。だけど、第三者委員会ができてしまうと司法は踏み込みづらい。それでいいのか。

 いま、私たちにできることは、この学校の子どもたちが将来、「東須磨小の卒業です。あの事件の教師はみんな裁きを受け、罪を償いました」と、きちんと言えるようにしておくこと。それしかないのではないか。

(2019年10月22日掲載)

 

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2019年10月17日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

問われる日本の表と裏の顔
-神戸で暴力団抗争勃発か-

 神戸と聞くと、阪神・淡路大震災の際、「後ろは六甲、前は穏やかな海、間を流れる幾筋もの川。この町にきっと帰ってきます」という市民の声がいまも心に残っている。

 あれから25年。大阪・ABCテレビの夕方ニュースの直前、その神戸が騒然としていた。中心部、元町に近い神戸山口組の中核組織、山健組事務所近くの路上で組員とみられる2人が拳銃で撃たれ、間もなく死亡した。警察は発砲した対立組織、山口組系弘道会傘下の68歳の組員をその場で逮捕した。

 発砲した男を組事務所近くで警戒中の警察官が職務質問。騒ぎを聞いて出てきた組員2人を撃ったという。周辺は騒然となり、「警官がいる前で、どないなっとんじゃ」と食ってかかる別の組員もいたというが、亡くなった方には気の毒だが、「どうなってんだ」と聞きたくなるのはこっちだ。

 六代目山口組が実質的に3団体に分裂して4年。緊張状態が続き、8月には、やはり神戸で山口組系弘道会組員が撃たれ、対立する神戸山口組系山健組への報復は必至とみられていた。加えて10月18日には、山口組ナンバー2の幹部が刑務所を満期出所する。山口組がそれまでに行動を起こすことは想像できたのだ。しかも、この日は山健組の傘下幹部が集まる定例会の最終日。報復するには、この日しかなかったともいえる。

 これだけの条件がそろっていたのに、警察官の目の前でなんでむざむざ2人が射殺されたのか。嫌な言葉だが、暴力団の抗争は「血のバランスシート」。双方が同じくらい血を流さないことには決着しない。2人が射殺されたとなると、この先の凄惨な抗争勃発は想像に難くない。

 今回事件が起きたのは、午後2時40分。近くの小中学校の下校時間前で、まさに白昼の銃撃だった。警察庁は、東京・府中刑務所を今週末の18日に出所するナンバー2は、この日のうちに緊張の続く神戸の山口組総本部に向かうとみて関係先に厳戒態勢を指示している。その4日後には、世界160カ国以上の来賓をお招きして即位礼正殿の儀。そんなときに銃撃戦は決して許されることではない。

 治安の正念場。ステキな神戸の町の表と裏の顔。いや、日本という国の、表と裏の顔が問われようとしている。

(2019年10月15日掲載)

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2019年10月10日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

公共放送NHKが根本から腐っていた
-罪深い現場関与-

 京都アニメーションへの放火殺人事件で被害に遭われた方の実名匿名報道が問題になっていたとき、私は「問われているのはメディアへの信頼性だ」と書いたり、コメントしてきた。そのメディアの一翼を担うNHKが根本から腐っていた。

 日本郵政グループのかんぽ生命が主にお年寄り相手に保険料を二重払いさせたり、契約の際、家族を同席させるなと強要。特殊詐欺まがいの営業を展開していた問題は、じつは明るみに出る1年以上前の昨年4月、NHKの「クローズアップ現代+(プラス)」が「郵便局が保険を“押し売り”!?~郵便局員たちの告白~」として放送していた。

 番組は視聴者から広く情報提供を求める“オープン・ジャーナリズム”によって制作。続編も放送すると予告していた。ところがこの流れを知った日本郵政グループがNHKの経営委員会に激しく抗議。これを受けて経営委員会は上田良一NHK会長を「厳重注意」とし、もちろん続編が放送されることはなかった。

 わかりやすく言うと、経営全般を仕切る取締役が番組制作の責任者を叱り飛ばした形。これで現場が萎縮しないわけがない。NHKをめぐっては、これまでも与党などから圧力があったことは報じられている。だが今回は警察、検察も関心を寄せているかんぽ生命の組織ぐるみの不正事件。番組にストップがかかってから1年余り。この間に、どれほど新たな被害者が出たことか。

 言うまでもなく、NHKは法律で国民から強制的に受信料を徴収することが認められた公共放送。その公共放送が、きょうもあしたも、お年寄りたちに被害が出ていることを知りながら警告を発する番組の放送をストップしていた。

 片棒をかついだとまでは言わないが、これほど罪深い現場関与があっただろうか。

 許せないのは、総務省からの天下りで郵政グループNO.2の副社長から「NHKはまるでやくざだ」とののしられながら、トップの会長も番組の続編を止めた経営委員会の委員も、いまだに視聴者に対して直接、なんの説明もしていないことだ。

 取るべき道はただ1つ。12人の経営委員全員と会長にカメラとマイクを向けて、「クローズアップ現代+」でノーカットで放送しろ。そのときまで私たちに受信料不払いの権利はあると思うのだ。

(2019年10月8日掲載)

 

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2019年10月 3日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

脅迫電話をかけまくったもん勝ちに
-「表現の不自由展」は再開なるのか-

 「表現の不自由展・その後」の企画展が再開に向けて動きだした直後に、文化庁が補助金全額不交付を決定。事態が激しく動いている中、「あいちトリエンナーレ2019」の芸術監督津田大介さんに東海テレビの「ニュース0ne」に生出演していただき、そのあとじっくりお話しさせてもらった。

 慰安婦を象徴した少女像などの展示に逮捕者まで出るすさまじい電話、メール攻撃で、開幕3日で中止に追い込まれた「不自由展」。津田さんは疲弊し、消耗しているのではないかと思ったのだが、この事態にも揺らぐことなく、ドンと立って、柔らかく語りかけてくる姿はいつも通り。その分、内に秘めた怒りがふつふつと伝わってくるようだった。

 前回、企画展をこのコラムで取り上げたときと同様、作品の評価はここでは置く。だが、7800万円の補助金の突然の不交付。「作品ではない。予想される混乱を申告しなかった手続きの問題」とする文科省の言い分を真に受ける人が果たしているのか。

 私も津田さんが主張する「自粛、萎縮効果を狙った事後検閲そのもの」と感じるのだ。突き詰めていけば、会場スタッフなどに「子どもの顔も知ってるぞ」といった脅迫電話をかけまくった人のやったもん勝ち。この手を使えば今後、どんな展覧会も書籍の出版も中止に追い込めるではないか。

 企画展を批判する声の中に「補助金をはじめ公費、国民の税金を使う以上は」という声を聞く。果たしてそうか。だったら原爆の悲惨さを伝える「はだしのゲン」を子どもに見せたくないという人がいるからと撤去した公立図書館も、護憲集会には会場を貸せないとした公会堂も正しかったということになるではないか。

 グラスを重ねるうち、生番組が終わった直後に進行役の高井一アナが「残念っ」と声あげたことを思い出した。この企画展の一連の流れ。「じつは津田さんが描こうとした壮大な不自由展ではなかったのですか」とダメ押ししたかったという。

 「うーん、聞かなくてよかったんじゃないですか」と言いながら、私の胸には別の思いがあった。芸術展は残すところ2週間。再開に向けて大きく動きだすことができるのか。この空白のキャンバスに私たちが何を描こうとしているのか。それが問われていると思ったのだ。

(2019年10月1日掲載)

 

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