2019年10月10日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

公共放送NHKが根本から腐っていた
-罪深い現場関与-

 京都アニメーションへの放火殺人事件で被害に遭われた方の実名匿名報道が問題になっていたとき、私は「問われているのはメディアへの信頼性だ」と書いたり、コメントしてきた。そのメディアの一翼を担うNHKが根本から腐っていた。

 日本郵政グループのかんぽ生命が主にお年寄り相手に保険料を二重払いさせたり、契約の際、家族を同席させるなと強要。特殊詐欺まがいの営業を展開していた問題は、じつは明るみに出る1年以上前の昨年4月、NHKの「クローズアップ現代+(プラス)」が「郵便局が保険を“押し売り”!?~郵便局員たちの告白~」として放送していた。

 番組は視聴者から広く情報提供を求める“オープン・ジャーナリズム”によって制作。続編も放送すると予告していた。ところがこの流れを知った日本郵政グループがNHKの経営委員会に激しく抗議。これを受けて経営委員会は上田良一NHK会長を「厳重注意」とし、もちろん続編が放送されることはなかった。

 わかりやすく言うと、経営全般を仕切る取締役が番組制作の責任者を叱り飛ばした形。これで現場が萎縮しないわけがない。NHKをめぐっては、これまでも与党などから圧力があったことは報じられている。だが今回は警察、検察も関心を寄せているかんぽ生命の組織ぐるみの不正事件。番組にストップがかかってから1年余り。この間に、どれほど新たな被害者が出たことか。

 言うまでもなく、NHKは法律で国民から強制的に受信料を徴収することが認められた公共放送。その公共放送が、きょうもあしたも、お年寄りたちに被害が出ていることを知りながら警告を発する番組の放送をストップしていた。

 片棒をかついだとまでは言わないが、これほど罪深い現場関与があっただろうか。

 許せないのは、総務省からの天下りで郵政グループNO.2の副社長から「NHKはまるでやくざだ」とののしられながら、トップの会長も番組の続編を止めた経営委員会の委員も、いまだに視聴者に対して直接、なんの説明もしていないことだ。

 取るべき道はただ1つ。12人の経営委員全員と会長にカメラとマイクを向けて、「クローズアップ現代+」でノーカットで放送しろ。そのときまで私たちに受信料不払いの権利はあると思うのだ。

(2019年10月8日掲載)

 

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2019年10月 3日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

脅迫電話をかけまくったもん勝ちに
-「表現の不自由展」は再開なるのか-

 「表現の不自由展・その後」の企画展が再開に向けて動きだした直後に、文化庁が補助金全額不交付を決定。事態が激しく動いている中、「あいちトリエンナーレ2019」の芸術監督津田大介さんに東海テレビの「ニュース0ne」に生出演していただき、そのあとじっくりお話しさせてもらった。

 慰安婦を象徴した少女像などの展示に逮捕者まで出るすさまじい電話、メール攻撃で、開幕3日で中止に追い込まれた「不自由展」。津田さんは疲弊し、消耗しているのではないかと思ったのだが、この事態にも揺らぐことなく、ドンと立って、柔らかく語りかけてくる姿はいつも通り。その分、内に秘めた怒りがふつふつと伝わってくるようだった。

 前回、企画展をこのコラムで取り上げたときと同様、作品の評価はここでは置く。だが、7800万円の補助金の突然の不交付。「作品ではない。予想される混乱を申告しなかった手続きの問題」とする文科省の言い分を真に受ける人が果たしているのか。

 私も津田さんが主張する「自粛、萎縮効果を狙った事後検閲そのもの」と感じるのだ。突き詰めていけば、会場スタッフなどに「子どもの顔も知ってるぞ」といった脅迫電話をかけまくった人のやったもん勝ち。この手を使えば今後、どんな展覧会も書籍の出版も中止に追い込めるではないか。

 企画展を批判する声の中に「補助金をはじめ公費、国民の税金を使う以上は」という声を聞く。果たしてそうか。だったら原爆の悲惨さを伝える「はだしのゲン」を子どもに見せたくないという人がいるからと撤去した公立図書館も、護憲集会には会場を貸せないとした公会堂も正しかったということになるではないか。

 グラスを重ねるうち、生番組が終わった直後に進行役の高井一アナが「残念っ」と声あげたことを思い出した。この企画展の一連の流れ。「じつは津田さんが描こうとした壮大な不自由展ではなかったのですか」とダメ押ししたかったという。

 「うーん、聞かなくてよかったんじゃないですか」と言いながら、私の胸には別の思いがあった。芸術展は残すところ2週間。再開に向けて大きく動きだすことができるのか。この空白のキャンバスに私たちが何を描こうとしているのか。それが問われていると思ったのだ。

(2019年10月1日掲載)

 

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2019年9月26日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

温かみも思いやりもない増税の法律&規則
-消費増税と複雑な軽減税率の話-

 出演している大阪・ABCテレビの「キャスト」に「お絵描きニュース」というコーナーがある。女性アナウンサーが、かわいいイラストをつけて時の話題を解説する。先週のテーマは10月1日、8%から10%に上がる消費増税だった。

 中でも最近人気なのが、外食でもない、内食でもない、中食(なかしょく)だそうだ。レストランなどの店内で食事をするのは、食品軽減税率の対象にならない外食扱いで10月から消費税は10%。これに対してピザやハンバーグといったものを持ち帰る内食は軽減税率が適用され、8%のまま。

 一方、レストランなどで調理途中の食品を買って家で少し手を加える。これが中食で、税率は内食と一緒で8%。女性アナは「パーティーなど出先でコックさんが調理してくれるケータリングも中食の扱いですから、お得かもしれませんね」とコーナーを締めくくった。

 ところが数分後、担当者があわててスタジオに「ケータリングは外食扱い。税率は10%」というペーパーを入れてきた。咄嗟に私は「国税の税解釈は複雑。訂正放送は少し待った方が」と止めたのだが、10%課税のケースがある以上ということで、おわびとともに訂正した。

 納得できない私がさっそく国税庁などのガイドブックを調べてみると、やっぱりなあー。

▼自店舗でないところで食事を出すのは「食事の提供」で外食。家で食べてもらうのは「飲食料品の提供」で内食。出張料理のケータリングは食事の提供とみなされ、外食扱いの10%となる
▼取り分けや盛りつけは食事の提供とみなされ、外食扱い。ただしみそ汁をおわんに入れたまま配達するとこぼれるので、出先でポットから分けるのは食事の提供にならず、軽減税率の対象
▼会社にコーヒーの出前を取る場合、社外の喫茶店なら内食扱いで軽減税率。ただし社内のテナントから取ると、お持ち帰りにはならず外食の10%
▼老人ホームの食事は原則内食の軽減税率。ただし「高齢者の居住の安定確保に関する法律」に登録すること。1食につき640円以下、1日の累計が1920円以下であること─

 このあたりまで読んで、私は完全にキレましたね。こんなわけのわからない法律に規則。役人の小理屈、屁理屈。温かみも思いやりもない、いやーな社会という気がしてならないのだ。

(2019年9月24日掲載)

 

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2019年9月19日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

昨年の関西の経験 学ばぬ政府
-台風15号 続く大規模停電-

 「一体、千葉の停電はいつ解消するんや」「千葉ではお年寄りだけでも避難してもらうわけにはいかんのか」。関西で遠く離れた「千葉」の地名が人々の口からこんなに出たのは初めてではないか。その裏には、なぜ去年の私たちの経験が生かされなかったのか、という思いがあるようだ。

 台風15号が去ったあと襲ってきた大変な停電被害。当初、首都圏で93万戸、千葉だけで63万戸。台風直撃から10日もたつのに、いまだ完全復旧に至っていない。それがどれほどつらいか。思い出すまでもない。昨年9月4日の台風21号。大阪のわが家でも3日間停電。私はそのうち一晩しか経験していないが、エアコンがつかない中、汗びっしょりになって何度、目が覚めたことか。千葉でもすでに3人が熱中症で亡くなっている。

 何より驚くのは、わずか1年前の関西の経験に政府がなにも学んでいない鈍さだ。みんながこんなに苦しんでいるのに、政府はついに非常災害対策本部を設けなかった。私が出演している大阪・ABCテレビが首相動静を精査すると、安倍首相は首都圏の駅を通勤客が十重二十重に取り囲んでいた9日午前、内閣危機管理監と気象庁長官からたった5分、状況の説明を受けただけ。そもそも台風が去ったあとで気象庁長官に何を聞きたかったのか。

 せめて関係閣僚会議を開いておけば、事態は随分変わったはずだ。だが、いかんせん翌々日は第4次安倍内閣再改造の日。首を長くして、大臣ポストを待っていた70代議員が首を伸ばし切って喜べば、最年少38歳の小泉進次郎議員は「理屈じゃない。自然な気持ち」と、なぜか結婚も大臣就任も一緒のコメント。ハシャギ浮かれていないで閣僚会議を開いておけば、事態は少なからず変わったはずだ。

 国交省は一昼夜以上もかけてやってくる北海道や九州電力などの車両の高速道優先走行。警察庁はそのための交通規制。防衛省は自衛隊のヘリによる機材輸送と障害物の撤去。総務省は消防庁や各自治体との情報交換…。関係閣僚が連携するだけで、復旧は少しだけでも前に進んだはずだ。

 あってはならないことだが、こんな経験を、せめて次につなげられないものか。天災は忘れたころにやってくる─人災は(政権の)鈍さを突いてやってくる。

(2019年9月17日掲載)

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2019年9月12日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

公務員の職務怠慢を罪に問えないか
-虐待事件の言い訳もう聞きたくない-

 少し前のこのコラムに、公務員が事件を起こそうと、とんでもない間違いをおかそうと、本人は名前も顔も隠してもらい、上司がしおらしく頭を下げて終わり。こんなことをしていたら私たちの社会はおかしくなると書いた。2件の児童虐待死事件を前にして、いままたその思いを強くしている。

 鹿児島県出水市で4歳の璃愛来(りあら)ちゃんが虐待死、母親の交際相手の男(21)が逮捕された。あざだらけで死亡した瑠愛来ちゃんは今年初め、それまで住んでいた薩摩川内市で4回、夜に戸外で1人でいたところを警察が保護。これを受けて警察は児童相談所に2度、女児の一時保護を要請したが、児相が保護することはなかった。

 また、母子が7月に薩摩川内市から出水市に転居した際、出水市は薩摩川内市から母親の育児放棄の引き継ぎを受けていながら、対応を協議する対策会議を開いていなかった。それどころか母親が妊娠しているのに、逮捕された男の存在は、両市とも「知らなかった」。

 一方、東京地裁では昨年3月、大学ノートに「もうゆるして おねがいします」と書いて亡くなった結愛(ゆあ)ちゃん(当時5)の事件で、父親とともに児童虐待で起訴された母親(27)の裁判が続く。

 この事件では、両親と結愛ちゃんは事件の約1カ月前に香川県から東京・目黒に転居。だが、虐待の事実を把握していた香川県の児相は、虐待を裏付ける資料を管轄の品川児相に送付していなかった。

 このため、転居から半月以上たって品川児相がやっと家庭を訪問。しかし母親は職員に「子どもはいない」と答え、児相はそのまま引き揚げている。この間、結愛ちゃんは朝4時に起こされて「ゆるして ゆるして」などとノートに記していた─。

 怒りとやるせなさで、胸が張り裂けそうだ。

 子どもの保護にも法律の壁がある、人手不足で1人の職員が100件も案件を抱えている、親と引き離すことが果たして適切か…。

 もういい。聞きたくもない。そんな言い訳、何万回聞いたことか。こんなことを言っている間に、何十人の子どもが命を落としたことか。極論であることも、批判も承知であえて書く。公務員の職務怠慢、職務不履行、職務不誠実を罪に問う法律はできないものか。

(2019年9月10日掲載)

 

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2019年9月 5日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

かけがえのなさに改めて触れる
-京アニ犠牲者実名公表-

 毎日新聞の朝刊、「永遠のエンドロール」の見出しを見て、また胸がつまった。京都アニメーション事件で犠牲になった35人のうち、25人の実名が公表され、すでに公表されている10人と合わせて全員のお名前や年齢が明らかになった。

 犠牲者の実名公表については、このコラムでもふれたように、ご遺族、警察、私たちマスメディアの間で、さまざまな軋轢(あつれき)が生じ、事件発生から40日、難航の末の結果だった。

 なぜ実名なのか。人さまのペンを借りるようだが、8月29日の、これまた毎日新聞のコラム、〈余録〉が言い尽くしくれているように思う。〈沖縄戦で亡くなった人々の名前を、国籍や軍人・民間人の区別なく刻んだ碑〉と、祈念公園の「平和の礎(いしじ)」を紹介。

 〈その石碑群が示す24万人という数の途方のなさにもまして、心を揺さぶるのは刻まれた名前の一つ一つだった〉と書き、〈並んだ名の一つにそっと手をかざすと、誰とも知れぬその人の生のかけがえのなさに触れた気がして涙が出てきた。この世に二つとない命が失われたことを伝える碑の名前である…〉と記す。

 京アニの実名公表については、ご遺族をはじめ、それぞれが苦渋の中にいたと聞いた。いまもなお、20人の遺族が公表に納得しておられないという。だからといってわが子、わが妻、わが夫の名を人々の心に届けたいと願う15人の犠牲者ご遺族の気持ちも重い。

 そうしたなか、実名公表に踏み切った京都府警は、発表に当たって、犠牲者の親族のみなさんのご意向を1家族ずつ丁寧に説明したと聞いた。では私たちメディアはどうだったのか。

 このたびは誘拐など人命に関わる事件以外は認められない報道協定を、まず在阪の民放4局が提案。時には深夜に及ぶ激論の末、新聞各社やNHKも協定に参加。遺族の負担を極力減らすべく、1家族について1社が代表して取材交渉に当たることとしたという。

 それぞれが痛みを分かちあった結果として、アニメや映画と同じように、いま静かに流れ始めたエンドロール。それぞれの人生、かけがえのなさに改めて触れつつ、未だ重篤な8人の方に思いを寄せる。

 暗い劇場に、まだ明りは灯りそうにない。 

(2019年9月3日掲載) 

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2019年8月29日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

政治家は俺の辺野古の海を埋め立てる
-沖縄知事が歌に込めた思い-

 ♪Businessmen,they drink my wine ~ Statesmen landfill my Henoko shore
 ─ビジネスマンは勝手に俺のワインを飲んじまって~政治家は俺の辺野古の海を埋め立てる。

 「7月のフジロックフェスティバルで熱唱されたそうですが、そのさわりだけでもお願いできないでしょうか」。東海テレビスタッフのむちゃ振りリクエストに、トントンとリズムをとった玉城デニー沖縄県知事は、張りのある歌声でボブ・ディランの曲に乗せてワンフレーズを披露してくれた。

 これまで何人も知事をインタビューしたが、こんな陽気なおじさんは初めてだ。

 「沖縄を飛び出して全国をまわろう」。知事の発案で始まったトークキャラバン。名古屋公演の前にインタビューさせていただいた。

 「わかっている人だけわかっていたらいいという問題ではないのです。沖縄で起きていることは、いつ本土で起きてもおかしくない。もし本土の大都市近辺に米軍機が落ちたとしても日本は手も足も出せない。それは沖縄と一緒なのです」

 だけど日本政府はその米軍の意に沿って、辺野古の埋め立てを強行する。

 「沖縄の民意に沿うと言いながら辺野古を撤回する意思はなく、ならばと実施された県民投票で72%が埋め立て反対とわかっても直後に埋め立てを再開する。それがいまの政権なのです」

 玉城知事は、決して日本中から基地をなくせと言っているわけではない。沖縄にばかり集中している基地の負担、それをなんとかしようと訴えているのだ。

 「これは沖縄と日本政府、日本政府と米軍がしっかり話し合えば、いくらでも道筋が見えてくるはずです。だから、私は対立ではない、対話をしましょうと呼びかけているんです」

 だが、玉城知事が対話の期間を設けようと官邸を訪ねた日、政府は辺野古の海に大量の土砂を投入した。

 どんな理不尽も力で押し切れば思いのまま。どんな不条理も相手を泣かせてしまえば、こっちのもの。沖縄で起きている理不尽や不条理は、いま本土に、いや全国に広がりつつあるのではないか。だけど、きょうも政治家は、Landfill Henoko ─辺野古を埋め立てる。

(2019年8月27日掲載) 
 

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2019年8月22日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

公務員も裁判官も「顔も名前も」ひた隠し
-不正、誤認逮捕の後始末-

 戦後74年の夏、当たり前のことだが、来年は75年。人の年齢でいえば後期高齢者となる。だけど日々ニュースを送りながら、この国は限りなく幼児化、お子ちゃま化している気がする。

 夕方の東海テレビのニュース。この日、名古屋市の職員2人と愛知県の職員1人の不祥事を伝えた。名古屋市の42歳の職員の男は、コンビニでマンガ2冊(950円相当)を万引して停職4カ月。また34歳の職員は「女性問題で悩んで」10日間無断欠勤して減給処分。23歳の県職員の男は焼酎のお茶割り10杯を飲んで車を運転、県は懲戒処分にするという。

 記者会見に出てきた女性を含む市や県の幹部。深々と頭を下げてみせたものの、やってられない感がありあり。それはそうだ。23歳、34歳、42歳の大の大人は、だれ1人、顔も出さなければ名前もなし。幹部が何分頭を下げようが、どこ吹く風だ。

 名古屋からの帰り、翌週ラジオで取り上げるニュースをメールでチェックすると「女子大生誤認逮捕。松山地裁謝罪せず」があった。タクシー内で運転手のバッグを盗んだとして無実の女子大生が逮捕された事件で、警察が請求するまま逮捕状を出した裁判官について、地裁は裁判官の名前の公表も謝罪も拒否した。

 この事件では誤認逮捕された女子大生が「手錠をかけられたときのショックは忘れられない」「就職が決まっているのに大変な事になるぞ、と脅された」とする手記を発表、取り調べ刑事の直接の謝罪を求めたが、県警本部長は「前例がない」と拒否。女子大生を2カ月にわたって責め続けた大の大人は、ここでも顔も名前も隠したままだ。

 まだある。香川県警では40代の警部補が、未成年の息子が交際相手の女性に乱暴、スマホを奪った事件で、息子が持っていたスマホを隠したうえ、女性に被害届を出さないように強要したという。だが県警は警部補の顔や名前どころか、事件そのものをひた隠しに隠していた。

 何をやっても責任をとることなく甘ったれたまま幼児化した大の大人。片やあの時代、軍の暴走を止めるどころか戦局をあおり立て、戦後は責任をとることもなく何食わぬ顔で社会に潜り込む。74年前のあのころの恥知らずな人たちと、どこか似てきてはいないだろうか。

(2019年8月20日掲載)

 

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2019年8月15日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

「その後のその後」やったらどうだ
-「表現の不自由展・その後」中止-

 みんながそれぞれ間違えているのではないか。名古屋の東海テレビで連日、あいちトリエンナーレの「表現の不自由展・その後」が中止になったニュースを伝えながら、そう思っていた。

 従軍慰安婦を表現する少女像などが展示されていることに河村たかし名古屋市長が「日本人の心を踏みにじる」と言えば、大村秀章愛知県知事は「市長発言は憲法(表現の自由)違反の疑いが濃厚だ」。そこに場外参戦した吉村洋文大阪府知事が「大村知事は不適格、辞職相当だ」と発言すると、伝え聞いた大村知事は「哀れ。大阪はこんなレベルの人が知事なのか」。

 そもそも愛知、大阪の府県民は、ののしり合いをしてほしくて知事、市長を選んだのではない。それにこの人たちの芸術論など、ハナから聞きたくもない。だけど愛知、名古屋の県市で、この国際展に10億円以上出しているとなると「金も出すけど口も出す」、それがこの国の風土なのだ。

 ただし、この金が公費、税金である以上、ガソリンをまくといった脅迫は論外として、タックスペイヤー、納税者に反対を訴える権利はあると思う。

 では、この「不自由展・その後」に出展されている方たちはどうしたらいいのか。4年前、2015年の企画展がそうだったように、公費でなく、すべて自前で、今回の会場近くで独自の「不自由展・その後のその後」をやったらどうだ。10月14日までの長い会期。いまなら、まだ間に合う。

 新たな会場費に、厳戒体制の警備費。経費はふくらむ一方で、チケットはいくらになるかわからない。だけど、どこからも1円たりともらっていない。企画者と来場者で思う存分楽しむ。

 もちろん今回の件とはまったく別だが、京都アニメーションの悲惨な事件では、「京アニに抱いた夢を消さないで」と国内外から18億円ものお金が寄せられている。大事なもの、消してはならないものに、お金を惜しまない人は多いのだ。

 では、そうしてすべて自前で再開された「―その後のその後」が脅迫や妨害を受けたらどうするか。私たちは県や市の行政機関、司法警察、あらゆる力をもって徹底的に守り抜く。

 「表現の自由」は民主主義のとりで。「表現の不自由」は私たちの社会にあってはならないからである。

(2019年8月13日掲載)

 

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2019年8月 8日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

遺族 警察 メディアでよりよい取材のあり方を
-京アニ放火 史上最悪事件だからこそ-

 「私はこれからもあなたのアニメの中にいます」「作品に出会って、生き方が楽になりました」。京都アニメーション、京アニの事件から2週間が過ぎた2日、犠牲になられた35人のうち遺族の承諾が得られた10人の実名が公表された。

 さっそくテレビ、新聞には名前が明らかになったアニメーターのみなさんやご遺族への思いがあふれた。だけど、この実名公表までにはさまざま紆余曲折があって、私も少しの間だったが、その混乱のなかにいた。

 事件当初、京都府警捜査1課は犠牲者の無念に思いをはせ、早い時期に実名を公表するとしていた。だが京アニ側が「そっとしておいて」と匿名を希望、いったん決まった7月末の公表は見送られた。さらに警察庁がメディア対策など、より慎重さを求めてきたため、時間を要してしまった。

 この間、実名、匿名報道について聞いてきた通信社が差し替えコメントを求めてきたときやテレビ局の打ち合わせで、私は取材記者に「ご遺族の気持ちや警察の被害者保護の姿勢はわかる。だけどこんなときにメディアは何をしているんだ」と何度も言葉を強めた。

 京都府警が100人もの警察官を被害者対策に向けた点は評価できる。だが報道に関して、遺族の要望を警察だけが聞いてくるという姿勢は間違っている。遺族の心のケアにも携わる警察官が「実名を出して取材に応じましょう」と言うとは思えない。むしろ悪気はなくても、警察というフィルターを通してメディアを語ることが多いはずだ。

 結果、事件に限らず、事故や災害で「ほかの子はお遊戯のビデオまで流れているのに、なぜうちの子は名前だけなの」と問い合わせがあって、確認すると警察が思い込みで「取材拒否」としていたケースもあった。

 日本の犯罪史上最悪の放火、殺人事件。だからこそこの事件を契機に、メディアスクラム防止のため全国の主要警察記者クラブが担当幹事社を常設しているように、新たに「ご遺族取材対策会議」といったものは設けられないだろうか。そこで遺族、警察、メディアの3者で、よりよい取材のあり方を協議していく。

 京アニとメディア、互いにステキで大事な表現者であり続けるために、悲惨な事件のなか、せめてそんなことができたらと思っている。

(2019年8月6日掲載)

 

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