2019年3月21日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」大谷昭宏

政策も理念もはるかかなたに吹っ飛ぶ
‐大阪クロス選挙‐
 あってほしくないことだが、私たちの仕事がにわかに忙しくなるのは、事件、事故、そして災害のときだ。ただ、ここ1カ月ほどはいささか違う。私だけでなく、自治体や地方政治に詳しい同じ事務所の吉富有治記者も新聞、テレビ、ラジオの取材依頼、インタビューと大忙しだ。
 もちろん話題は、大阪府知事と大阪市長が入れ替わって立候補するクロス選挙。来月の統一地方選に合わせたこの奇策の裏に、4年前に否決された大阪都構想があることは全国の人もわかっている。だけど「都構想ってとっくの昔にケリがついたんじゃなかったの?」と、みなさん、疑問符だらけ。もちろん大阪の人だって私の知る限り、大半が「いいかげんにせえや」だ。
 そもそもクロス選挙になったのは、松井一郎知事と吉村洋文市長の大阪維新の会と公明党の大げんかがきっかけ。2015年、大阪都構想をめぐる住民投票で敗れた維新は「負けは負け」と言っていたのに、僅差だったこともあって未練タラタラ。結果、公明と再度、住民投票に持ち込む密約まがいの合意文書を作成した。
 ところが、その実施時期をめぐって今年4月の統一地方選と主張する維新の松井・吉村組に対して公明は、地方選と夏の参院選、そこに住民投票ときては支持母体がもたない。「実施は秋の約束だった」と譲らず、ついに維新側は「内緒の合意をバラすぞ」と、どう喝まじりの立ち回り。結果、知事、市長が入れ替わることで互いに任期がこの先4年となるクロス選挙で「信を問う」ことにしたという。
 あきれるばかりの選挙に、私は大阪の毎日新聞から「今度の選挙を“大阪○○選”と命名すると─」と依頼されて“どの面下げて選挙”と名づけさせてもらった。政策も理念も、はるかかなたに吹っ飛んだこの選挙。今年は統一地方選に、参議院選、衆議院補選と並ぶ亥年選挙の年。のっけからこんな低次元の選挙にはつきあってられないといった空気になることが怖い。
 それにしても維新は大阪で公明と大げんかしたうえ、自民とも来る選挙で全面対決。なのに中央政界に目を移せば、維新も公明も、ともに安倍自民を支える密約ならぬベタベタの蜜月関係。この3者、もし打ちそろって大阪に来ることがあったら、果たして“どの面下げて”来はるんやろか。
(2019年3月19日掲載)

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2019年3月14日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

復興 何ができなにができないか峻別する時
‐福島・山木屋地区 浪江町 双葉町を訪ねる‐

  東日本大震災は、3・11、きのう発生から8年を迎えた。それに先立って2月末、毎年取材を続けている福島県川俣町山木屋地区、そして浪江、双葉町を訪ねてきた。

  例年だとこの季節、特に山間部の山木屋は膝のあたりまでの雪に覆われているのだが、今年は雪はなく、田畑の土が見えていた。その分、妙な言い方だが、復興の地肌というか地金が見えてきた気がするのだった。

  一時は400人が避難していた町営グラウンドの仮設住宅は最後の2世帯2人が3月末には転居、閉鎖になるという。だけど仮設から避難指示が解除になった山木屋に戻った人は少なく、かつて1200人が暮らした地区で、いま生活している人はわずか300人だ。

  去年、このコラムでも紹介した地区の山木屋小中学校は、小学6年の児童5人がこの春卒業。地域外の中学に通学するうえに新入学児もいないことから、心配した通り、開校1年で小学校は休校、中学も来年度末には生徒がいなくなるという。じつに11億円をつぎ込んだ屋内プールつきの学校。6人の先生方は学校見学会を実施して新入生の獲得に必死だと聞いたが、私の率直な思いは、「そろそろ見切りをつけたら」だった。

  地区の区長で仮設住宅でも自治会長をしてきた広野太さん(69)のお宅。昨年までは雪に覆われていた畑に4、5㍍の高さまで原発の除染土などを詰めたフレコンバッグが積まれ不気味な光景になっていた。だが、今年はきれいに撤去され、雪のない畑に地肌が見える。ただ、広野さんは「全町避難が続く双葉町の中間貯蔵施設さ、持って行ってくれたんだ」と口が重い。

  その言葉に押されるようにして訪ねた双葉町中野地区の中間貯蔵施設。施設に入りきらない黒いフレコンバッグが二重三重に取り囲んでいる。まわりはひしゃげた車、家電製品にタイヤ。土ぼこりが舞うなか、ただただ荒涼たる風景が広がる。だが、国は東京五輪までに、この地にアーカイブ(記録庫)や産業交流センター、カフェを開設するという。

  もちろん成功することを願うが、果たして山木屋の小中学校のようにならないのか…。復興計画の何ができて、何ができないか。いまはそれを峻別する時ではないのか。地肌の見えた福島は、そのことを訴えているような気がするのだった。

(2019年3月12日掲載)

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2019年3月 9日 (土)

Webコラム 吉富有治

問われるのは有権者の良識ある市民目線
 ~クロス選挙は脱法行為の疑いも~

  松井一郎大阪府知事(大阪維新の会代表)と吉村洋文大阪市長が一か八かの奇策に出た。それぞれ任期を半年以上も残して知事と市長を辞職し、4月の統一地方選にあわせて知事と市長を入れ替えるクロス選挙に打って出る。両氏は8日夕、記者会見してそれぞれの辞任を正式に表明した。 

 今回のクロス選挙の背景にあるのは大阪維新の会と公明党との対立だ。つかず離れずの関係だった両党が、ここに来て戦闘状態に入ってしまったからだ。

  大阪市を廃止して特別区を設置する、いわゆる大阪都構想をめぐって維新と公明党は当初、密約を結ぶような仲だった。その密約の中身とは、都構想の制度設計を議論する法定協議会の設置と住民投票を実施する、この2点。2015年5月17日の住民投票では反対票が賛成票を上回ったものの、同年11月の知事選、市長選のダブル選挙で維新の会が圧勝。維新の勝利を受け、公明党も2017年4月17日に密約文書にサインし、法定協議会は2017年6月末に再スタート。このまま約束は実行されるかに思えた。
 
  ところが昨年末、4月の統一地方選に合わせて住民投票を実施したいと迫る松井知事に公明党が反発。統一地方選に住民投票をぶつけられると投票率が上がり、組織票頼みの公明党は苦戦すると考えたからである。

  この対立をきっかけに両者の関係は一気に冷めることになる。3月7日の法定協議会では両党の議員が激しく言い争い、決裂は決定的になった。法定協議会の終了後、松井知事と吉村市長は「だまされた」「死んでも死にきれない」などと公明党を激しく非難し、クロス選挙に出て同党を牽制する作戦に出たのだ。

  一方、このクロス選挙に疑問を投げかけたのが3月5日の毎日新聞社説だった。「大阪知事・市長の策略 地方自治への二重の背信」と題した社説は「公職選挙法の規定によると、松井、吉村両氏がそのまま出直し選挙で当選しても11月と12月までの任期は変わらない。自分の都合に合わせて新たな任期を防ぐのが法の趣旨だ」とし、「ポストを入れ替えて当選すれば両氏とも4年の任期を得る。一種の脱法行為ではないか」と一刀両断した。私も同意見である。

  まず、クロス選挙は「出直し選挙」ではない。出直し選挙とは一種の信任投票で、知事や市長が自ら掲げる政策の賛否について公職を賭して有権者に問うことである。そのため選挙で復職しても任期は辞める前と変わらない。半年残しての辞任なら、当選しても任期は4年ではなく半年である。これが公職選挙法第259条2項の規定である。

  そもそも同法259条2項の立法趣旨は、知事や市長が意図的に辞任し、いたずらに任期を伸ばす悪意のある政治利用を防ぐことを目的としている。実際、過去には知事や市長が敵陣営の擁立候補が決まらないうちに不意打ち的に辞職し、「首長選は現職が有利」のセオリーを利用して辞任、当選を繰り返しては任期を伸ばしていた事例が国内でもあったという。そのため首長選挙の悪用を防ぐために公職選挙法を改正した経緯がある。

  さすがに今回のクロス選挙は同法も想定しておらず、抜け穴とも言える。抜け穴だが、立法趣旨を逸脱しているのは間違いない。だから毎日新聞社説は「脱法行為だ」と断じたのだ。

  こうした芸当ができるのは知事と市長が共に同じ維新に所属する政治家だからで、片方が非維新の首長なら不可能だったはずだ。松井、吉村の両首長は「共に同じ方向を向いているから、知事と市長を入れ替えても変わらない」と言うが、別の見方をすれば脱法行為の温床が存在することでもあろう。同じ仲間の首長同士、悪知恵が働けば、その"効果"もダブルになるというわけである。このような問題を防ぐためにも、国会は急ぎ公職選挙法の一部改正に取り組んでもらいたい。
 
  それ以前に、クロス選挙をやって仮に"松井市長"と"吉村知事"が誕生したところで、法定協議会に対して何らかの処分や命令を出せるわけでもメンバーを入れ替えられるわけでもない。公明党が維新に頭を下げない限り以前と何も変わらないのだ。いったい何のために辞めるのか、誰が考えてもさっぱりわからない。

  辞める意味も大義もなければ、法の趣旨をねじ曲げる脱法行為の疑いさえある今回のクロス選挙。4月の統一地方選と知事選、市長選で問われるのは都構想の是非ではない。有権者の常識と良識ある市民目線である。

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2019年3月 7日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

悩んだら なぜその職業を選んだのかを考えろ
‐企業説明の解禁、就活の開始‐

  春3月、やわらかな日差しがそそいだ1日、いつもの東海テレビ(名古屋)の「ニュース0ne」は来春卒業予定の大学生などに向けた企業説明の解禁、就活の開始を伝えていた。面接や内定の解禁日も定めた、いわゆる経団連ルールは今年が最後だという。

  とは言っても少子化の中、大変な若者不足で、実際は今年もなし崩し。きょうからしっかり企業を回ります、と硬い表情の学生がいる一方で、ニュースはチアリーダーが飛び跳ねる専門学校の出陣式。「4月中に内定をもらって5月の連休は海外で~す」という笑顔の女子グループも伝えていた。

  「まったくの売手市場ですね」というキャスターの問いかけに、こちらも笑顔を返しながら、ついついこんな言葉が口を突いて出る。

  最後はなんとか希望がかなったとはいえ、マスコミ一本に絞って不安のまっただ中にいたわが就職活動。この日解禁になった学生に「そんなときだからこそ」と、コメントをした。

  バブルがはじけて失われた十数年、就職氷河期といわれた時代は、心ならずもその職に就かざるを得なかった人が大勢いた。進路を選べるいまだからこそ、心底、自分がどんな職業につきたいのか、問いかけてほしい。

  華やいだ雰囲気のなかで、どうしてもこんなことを言っておきたかったのは、たまたまこの日の朝、書店で1冊の文庫本を手にしたからかもしれない。

  朝日新聞三浦英之記者の「南三陸日記」。東日本大震災の年の6月から9カ月、三浦さんは津波で甚大な被害が出た南三陸に身を置いて日記をtづづった。その記事に私も何度、涙をぬぐったことか。それが集英社から文庫本になったのだ。

  忘れられない一文がある。

  三浦さんが駆け出し記者時代、「職業は違うが、目標は一緒だ」と何度も肩を叩いてくれた、その警察官は幹部になっていたが、あの震災で命を落とされた。県警の公葬が終わるのを待って主なき自宅を訪ねた。

  〈最期は女性を助けようと濁流にのまれた、と聞いた。「どうして…」と仏前で言いかけて、彼の口癖を思い出した。

  「悩んだら、なぜその職業を選んだのかを考えろ」

  帰りの車の中で、私は大声をあげて泣いた─〉

  春は、やはり出会いと別れの季節なのかもしれない。

(2019年3月5日掲載)

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2019年2月28日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

発表も謝罪もなし 被害金は補填…では済まない
‐広島県警・死亡警部補の犯行‐

  「広島中央署の8500万円盗難事件の犯人が書類送検されるようです。あの警察官だと大谷さんに伝えていただけたら、わかるはずです」。これまで何度も取材に応じてきた広島テレビの記者から、あわてた様子で事務所に電話インタビューの依頼があった。

   「ええっ? やっぱり事件後亡くなった、あの警官だったのか」

  2017年5月、広島中央署1階会計課の大型金庫に詐欺事件の証拠品として保管中だった現金8500万円余りが盗まれた。警察署内で起きた前代未聞の多額盗難事件に県警は青くなり、市民はあきれ返った。

  だが内部犯行といわれながら捜査は難航。そんな中、詐欺事件の捜査に関わり、事件後借金を返済していた30代の警部補が浮上。しかし頑強に否認したまま、警部補はこの年の9月、自宅で死亡していた。県警はメディアの追及に警部補の関与を強く否定していたが、現金は見つからないまま、近くこの警部補を被疑者死亡で書類送検するという。なんのことはない、1年半も回り道をしていたのだ。

  それにしても警察署内で大金の盗難。結果、内部の警官の犯行。だけどその警官は 死亡していた─。またまたあきれ返る最悪の結末。だけど私は、広島県警が猛省すべきは捜査だけではないと感じている。

  事件から1年10カ月。県警は公には事件の内容を一切、発表していない。それに、ただの1度も県民に謝罪していないのだ。県議会での質問に答えたのと、昨年1月、本部長が転勤する際、記者クラブの強い要請で離任あいさつのついでに事件にふれ、「このような形で離任することを心苦しく思う」と述べただけなのだ。

  加えて「警察官を被疑者死亡で書類送検」の報道が出る直前、県警は被害金について、現職幹部とOBで補填すると発表した。身内の犯行とわかったので、身内で金を出す。県民には迷惑をかけないということだろうが、それですむという問題ではないだろう。

  まず、なぜこの警部補と断定したのか。これほどの大金をいつ、どうやって警察署外に持ち出したと考えられるのか。こと細かく公表したうえで、幹部が打ちそろって心から謝罪する。それなくして、いくら再発防止を唱えようと、空念仏としか聞こえてこないのだ。

(2019年2月26日掲載)

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2019年2月21日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

池江さん 待っているからね
‐励まされた言葉‐

  池江璃花子選手の白血病公表で思わぬ波紋が広がっている。桜田義孝五輪相の「がっかり」発言では、この日刊スポーツからもコメントを求められた。私自身、がん手術を経験していることから、池江さんの件ではテレビなどで思いを聞かれることも多い。

  桜田大臣の言葉は、4分余りの全体を聞くと、激しく人を傷つけていると思えない。だけど、たびたびの不規則発言、それに五輪憲章も読んでいない担当大臣を政権は意固地になって更迭もしない。それがこんな騒動を引き起こしているのだ。これから病と闘う池江さんに、そんな姿を見せてどうするんだ。

  じつはこうした流れは、がんと闘う人と、まわりとの間にぎこちない影を落としているように思えてならないのだ。私自身が気にしていないのに、がんのことを口にして急いでとり繕う人。傷つけまいと、がんの話題を避けようとする人。かえって気まずくなったことも多い。

  池江さんの件では先週、朝日新聞が2面トップで「がんとの闘い どう接すれば」の記事を掲載。「応援が励みに」という闘病経験のある選手の言葉を載せる一方、「応援は患者の思いを聞いて」という専門家の声も紹介している。

  なんだかなあ。国民の2人にひとりが、がん患者といわれる時代に、もっと肩の力を抜くことはできないものか。

  ひるがえって私も、かなり難しいがんと宣告されたとき、まわりの方々がさまざまな声を寄せてくださった。もちろん傷つくことを言われた覚えはないが、「がんばって」「負けないで」「いまは医学が日進月歩だから」…。そのとき一番心に強く残った言葉は、いま思い起こしてみると単純に「待っているからね」だった気がする。

  「早く良くなって。待っているからね」「あせらずに。待っているからね」「気長にのんびり。待っているからね」。変幻自在、いかようにもとれるこの温かい言葉に、どれほど励まされたことか。

  池江さんは、「今の率直な気持ち」と題して、たくさんの励ましのメッセージに感謝を込めて更新したツイッターの最後をこう締めくくっている。

  「必ず戻ってきます。池江璃花子」
 
  ─そう、待っているからね。


(2019年2月19日掲載)

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2019年2月14日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

弱者へ決して口にしてはいけないこと
‐麻生大臣、明石市長の発言に思う‐

  大阪から東京に向かう飛行機の中で、いま統計不正問題で政権追及の急先鋒に立つ旧知の野党女性議員と言葉を交わした。賃金、保険、まさに国民生活の根幹にかかわる統計の不正。

  「根本が腐っているなんて言っている場合じゃないよ。最低でも厚労大臣は辞職に追い込まないと」という私に、議員は「わかっているけど結局、麻生さんが壁なの」と力なく笑う。

  あの森友・加計問題の財務省文書改ざん事件。それに女性や高齢者、病気や障害のある人たちへ度重なる心ない発言。「どれも少し前だったら即刻辞任となるはずなのに、のうのうと生き延びているでしょ。だからどの大臣も、この程度で辞めるもんかとなっているの」。

  ところが偶然とはいえ、なんとその数時間後、当の麻生さんは福岡で開かれた講演会で、またしてもこんな持論を展開していたのだ。「高齢者が悪いみたいに言う人がいっぱいいるが、子どもを産まないのが問題なんだからね…」。

  そして2日後には「不快と思われる方には、おわび申し上げる」という毎度おなじみのふてくされ謝罪。

  ここに書き出すだけでも業腹な話だが、「セクハラ罪という罪はないんだよ」。終末医療のお年寄りには「さっさと死ねるようにしてもらうとか考えないと」。医療費の負担には「たらふく飲んで食べて、なにもしない人の(医療費を)なんで私が払うんだ」。

  こんな人物が財務相、副総理の座を追われることもなく、戦後の蔵相、財務相の在籍最長になったという。

  折しも道路買収交渉が進んでいないことに腹を立てて、市役所幹部に「楽な商売じゃ、お前ら」「いまから行って建物燃やしてこい。捕まってこい」と、パワハラ発言していたことが発覚、辞任した泉房穂明石市長。ここにきて「私だったら、(地権者に)土下座してお願いする」とした市長の音声データが出て、にわかに擁護論が浮上。次期市長選への出馬は様子見だという。

  だけど麻生さんも泉市長も本当にこれでいいのだろうか。自分の部下や、社会のなかで苦しい立場、弱い立場にある人に決して口にしてはならないことがある、と私は思う。

  「たるんじゃったな…みんな…」。昨年亡くなられた毎日新聞の岸井成格さんが最期に親しい人に漏らした言葉が浮かんで、消える。

(2019年2月12日掲載)

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2019年2月 7日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

アベノミクス忖度ではないところに問題の根深さが…
‐厚労省 統計不正問題‐

  朝日、毎日、それに日経新聞も「統計不正問題」。だけど読売は一貫して「不適切調査問題」。産経はその両方を使い分け。さて、どの表現が「適切」かはともかく、私は、この問題の追及の仕方は当初から間違えていると思えてならない。

  厚生労働省が実施している「毎月勤労統計」に続いて「賃金構造基本統計」も長年、定められた方法ではない形の調査が行われていたことが発覚。働く人の実質賃金も国の公表値は誤りとなった。当然、野党はアベノミクス成功の根拠となった賃金上昇は「大うそ、ごまかしだった」と厳しく追及する。なるほど、ここでもまた役人の忖度か、という気がしてくるのだ。

  だけどこの問題、まずなすべきことは、いつ、どこで、だれが、こんなことをしたのか。その目的はなんなのかを明らかにすることではないのか。その結果、「不正、不適切なことはしたけど、それがアベノミクスにどう影響するかなんて眼中になかった」となったら、野党もメディアも、まさに空を切って刀をふりまわしていることになる。

  こう書くのには、じつは根拠がある。問題発覚後、中央省庁の元キャリアと話す機会があったのだが、その元官僚は各省庁にある統計部局を伏魔殿としたうえで、「トップクラスのキャリアを除いて人事異動はほとんどない日の当たらない専門部局。省庁の中枢になることのない彼らに時の政権への思惑などあるはずがない」と言い切るのだった。

  その言葉を裏付けるように毎日新聞は今回、問題が発覚した厚労省の雇用・賃金福祉統計室は3万人の職員のうち、わずか17人。調査にあたった特別監察委は「安易な前例踏襲主義で長年、漫然と業務を続けてきた」と断じていると伝えている。また産経新聞も、この問題の震源地は統計部局としたうえで、「政策部門と切り離された閉ざされた組織」としている。

  ならばそんな人たちが、それでもアベノミクスに忖度したというのか。そうではないところにこの問題の根深さがある。こんな日の当たらない組織が漫然と出してきた数字をもとに、長年あらゆる施策が決められてきたのだ。まずはこの組織の実態を白日のもとにさらし、そのうえで統計をうのみにした政権が責任を取る。それが物事の順番というものではないのか。

(2019年2月5日掲載)
   

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2019年1月31日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

現職警察官が昇任試験めぐり多額報酬
‐なぜか全国紙報じぬ大問題‐

  事件、事故、災害取材。新聞、テレビといったメディアがもっとも関わりの深い公的機関といったら、やはり警察だろう。ただ大きく違うのは、警察組織は昇任試験に支えられた徹底した階級社会。それこそ上官の命令は絶対。「悔しかったら、(階級章の)星の数を増やしてからものを言え」の世界なのだ。だが、いまその昇任試験をめぐって警察組織が大きく揺れている。

  東京の出版社の依頼で、現職の警察官が昇任試験の対策問題集や模範解答に長年、原稿を執筆、相当額の報酬を受け取っていたことが明るみに出た。ただし、この問題、年明け早々に九州の西日本新聞がスクープ。先日、私のところにも京都新聞からコメント依頼があったように一部のブロック紙や地方紙が連日、報道しているのに、なぜか全国紙の大半は、いまのところ報じる気配はない。

  だけど、西日本新聞などの報道によると、現職警察官が執筆していたのは警察庁はじめ、福岡、広島、京都、愛知、神奈川など17道府県に及ぶ。このうち京都府警の警視は偽名を使うなどして5年間で計795万円を受け取り、西日本新聞が取材に入った昨年末、退職している。さらに神奈川県警の元警視は在任中、1000万円近い報酬を受け取っていた。もちろん副業を禁じた職務規定に違反しているし、税務申告していなかったら所得税法違反だ。

  ただ、そういったこととは別に、大半の警察官が激務の合間に少しでも上の階級を目指して眠い目をこすって勉強している。私もかつてそんなデカさんたちを見てきた。なのにその上司の警部、警視が民間の出版社に問題例を流して多額のお金を手にしている。現場で働く警察官が聞いて心穏やかでいられるはずがない。

  一方で災害の多い県警。山岳事故、海難事故への対応が求められる県警。設問がそれぞれ違う昇任試験。効率的な参考書を求める声も根強い。ここはどうだろうか。各警察本部が警務課や教養課に匿名の考査委員を置き、その委員が出版社との契約で地域の特性を生かした問題と模範解答を執筆。報酬は委員の慰労と警察官の福利、厚生に充てる。

  もちろん警察組織への批判も大事だ。だが一方で古いおつき合いの間柄。メディアの側からそんな提案があってもいいと思うのだ。

(2019年1月29日掲載)

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2019年1月25日 (金)

Webコラム 吉富有治

見えてきた都構想の終わり
荒れた法定協議会で維新と公明党との対立は決定的

「会長、動議! 動議!」

  大阪市議会で昨日23日午前に開かれた「大都市制度(特別区設置)協議会」、いわゆる法定協議会で、今井豊会長(維新幹事長)が開会を宣言した直後、委員である公明党の八重樫善幸府議が冒頭のように動議を求める発言を繰り返した。これが波乱の幕開けだった。なお法定協議会とは、いわゆる大阪都構想の制度設計をおこなうことを目的に、大阪府の松井一郎知事と大阪市の吉村洋文市長、また府議会と市議会から各党の代表議員の計20名が参加して議論を進める場のことである。

  さて、動議を提案した八重樫府議は用意していたメモを読み上げ、今年1月11日の第18回法定協議会は今井会長の一方的な通告で開催されるような異常事態であり、次回は改めるよう忠告したにもかかわらず、本日の法定協議会も強引な手法で開催されたと批判。断固抗議するとともに直ちに散会するよう訴えた。

  この動議を受けた今井会長は採択をおこなわず、「大事なことだから皆さんの意見を聞く」と受け流し、なぜか維新の委員ばかりを指名。そこに、この動議の採択を求める委員や維新の委員から「採択しろや」「やかましいー」「職務放棄だ」などと怒声が飛び交い、協議会は40分以上も紛糾。結局、1時間近くの休憩をはさんだ後、今井会長は散会を宣言し、この日の法定協議会は議論がおこなわれぬまま中止となった。

  これまで維新と歩調を合わせてきた公明党が180度も態度を変えたのには理由があった。大阪府の松井一郎知事が昨年12月26日、大阪府庁で記者会見し、維新と公明党が水面下で交わした密約文書を暴露したからである。「合意書」と題されたA4サイズ1枚の紙には、法定協議会において「慎重かつ丁寧な議論を尽くすことを前提に、今任期中に住民投票を実施すること」と書かれ、2017年4月当時の公明党府本部幹事長と大阪維新の会幹事長が署名していた。ちなみに署名した維新側の人物が法定協議会の今井会長である。

  松井知事は市内のホテルで昨年12月21日、公明党の幹部らと面談。この密約文書を盾に、「任期」とは府議と市議のそれだと主張。4月の統一地方選と住民投票の同日実施が無理なら7月の参院選での同日実施を提案したが、公明党は「『任期』は知事と市長の任期であり、住民投票をするにも丁寧な議論が必要だ」と譲らなかった。怒った松井知事は途中で席を立ち、文書の暴露に踏み切った。また松井知事は、吉村市長と共に途中で辞任し、4月の統一地方選で知事選、市長選のトリプル選挙に打って出ることも示唆し、公明党を揺さぶる作戦に出た。

  しかし、公明党は折れるどころか、ますます反維新の態度を強めていく、業を煮やした維新側は、これまで慣例として各党の代表者が集って調整していた法定協議会の日程を会長権限で強引に決めてしまった。確かに日程は会長が決められると法定協議会の規約には書かれている。だが、これでは慣例破りとなり平穏な会議は望めない。当然、維新以外の各党が反発し、冒頭の動議騒動に発展したわけである。

  松井知事らは終了後の記者会見で「公明党は選挙目当ての私利私欲。慎重で丁寧な議論どころか完全な職責放棄だ」と批判した。だが、公明党の八重府議が提案した動議は会議をつぶすことが目的ではなく、正常な会議に軌道修正してほしいというものである。

  対立する意見を目の前にして慎重な議論を進めるためには、その会議の運営が公平・公正・中立であることが前提だろう。片方の主張、意見ばかりを聞き、反対する意見を顧みない会議の運営では、とても慎重な議論など望めない。こんな調子で時間を取って会議を進めても慎重で丁寧な議論などできるわけがない。そもそも密約文書に署名した人物が法定協議会の会長に収まっていること事態、協議会の公平な運営など期待できないし、ここにきて今井会長の議事進行にも強引さが目立つ。公明党は公平で公正な議論の場を求めたにすぎず、職責放棄でも何でもない。むしろ維新による法定協議会の八百長ぶりが目につく。

  いずれにしても今後、法定協議会はまともに開かれないだろう。となれば、「住民投票の実施」を大義に掲げた松井知事と吉村市長が任期を待たずに辞任し、統一地方選とのトリプル選挙になる可能性が非常に高い。だが、仮に知事と市長の椅子を維新が取ったとしても、中選挙区制の大阪市議会で維新が単独過半数の議席を奪うのは、まず不可能。結局、公明党の協力がなければ都構想など絵に描いた餅でしかなく、その公明党は支持母体である創価学会の了承を得て、維新と徹底抗戦の構えでいる。

  この日の荒れた法定協議会を維新の一部議員らは、自民、公明、共産を批判する材料として早くも宣伝材料に使いだした。しかし、あの法定協議会が都構想の終わりを伝えるものだと気づいた議員は何人いたのだろうか。4月の"最終決戦"まで、あと2ヶ月と少しである。 

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