「私たちの方を向いていない」…再審法改正案成立
-袴田ひで子さんの思い-
こんな法律、会期を延長してまで通して何になると、酷暑の最中、市民から冷ややかな目で見られていた今国会。そんななか冤罪被害者だけでなく、国民的関心を呼んでいた再審法改正案は先日、可決成立した。
とはいえ、審理引き延ばしのための検察の抗告権容認や証拠の目的外使用の禁止など懸念材料は積み残したまま。リモートで記者会見した袴田事件の袴田ひで子さんは「がっかりでございます。私たちの方を向いてやっていないように見えます」と思いを語った。
そのひで子さんは法案成立の少し前、春にお会いしたときから「去年はイタリア、今年はフランスだよ」と楽しみにしていたパリにいた。130カ国、1300人が参加した「死刑廃止世界会議」。その総会でスピーチに立ったひで子さんを映像で見せていただいた。
「きょう6月30日はくしくも60年前、弟、巌が冤罪をかぶせられた殺人事件が起きた日です。それから無罪が確定するまでじつに58年かかりました。弟は死刑の恐怖から精神に異常を来し、いまも元に戻れません」
凛とした声で冤罪の恐ろしさと、死刑制度の酷さを訴えるひで子さんに、静まり返っていた会場からは、やがてスタンディングオベーションが起きた。国際会議の映像でこんな光景にふれたのは初めてだ。
そのひで子さんの姿に、ふっと私の胸にわいてきた思いは「お疲れさまでした。どうぞ心置きなく、バトンをお渡しください」というものだった。ひで子さん93歳。巌さん90歳。今回の法改正は、この人たちなしにはあり得なかった。その一方で袴田さん無罪確定まで58年。責任の一端は私たちメディアにありはしないか。
だからこそ「私たちの方を向いていない」という法を今後、多くの冤罪被害者の方に向けさせる。それがメディアの責任ではないか。無罪確定で「袴田事件」をあわてて「静岡一家4人殺害事件」と言い換える小手先の反省は、もう見たくもない。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2026年7月27日(月)掲載/次回は8月10日(月)掲載です)
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